ゲノム検査を酪農経営の判断基盤に――ゾエティスがセミナー、健康性・収益性を両立する牛群改良を提案

ゾエティス・ジャパンは8月26日、北海道札幌市のTKPガーデンシティPREMIUM札幌大通で、乳牛のゲノム検査と遺伝改良をテーマに「Zoetis 酪農ゲノムセミナー 2026」を開催した。繁殖生理学とゲノミクスを専門とする同社プレシジョン・アニマルヘルス部門グローバル・キーアカウントリードのアンソニー・マクニール氏が、ゲノム検査の基礎や農場での活用方法を解説。北海道中標津町の有限会社工藤牧場の工藤隆介氏も登壇し、繁殖計画や後継牛選抜、搾乳ロボットへの適性などを踏まえた実践事例を紹介した。

若齢期から遺伝的能力を高精度に評価
マクニール氏は、同じ農場、同じ飼養環境で管理される乳牛でも、生涯収益には大きな個体差があると指摘。乳量や繁殖性、疾病の発生、供用期間などの違いには、飼養管理だけでなく牛自身の遺伝的能力も影響し、この差を早期かつ高精度に把握する手段として、ゲノム検査の重要性が高まっているとした。
従来の遺伝評価では、父牛と母牛の能力から算出する親平均(Parent Average)による評価が主流だった。しかし、同じ両親から生まれた全姉妹でも、受け継ぐDNAの組み合わせは異なる。このため、血統上は同程度に見える牛でも、実際の遺伝的能力には幅が生じる。ゲノム検査では、生産・繁殖・健康に関する記録、血統情報、後代成績に遺伝子型情報を加え、個体ごとの能力をより正確に推定する。
検査の利点は、若齢期から信頼性の高い評価を得られることだ。従来は自身や血縁牛の成績がそろうまで時間を要したが、ゲノム検査では未経産牛の段階から将来性を評価できる。親子関係の確認にも利用でき、血統記録の誤りを補正する効果もある。これにより、後継牛として残す個体や使用する精液、交配相手を早期に決定でき、牛群改良の迅速化につながる。
農場ごとに「良い牛」の定義を
一方、検査結果を有効活用するには、農場ごとに「良い牛」の定義を明確にする必要がある。高乳量を目指すのか、繁殖性や健康性、長命性、飼料効率を重視するのかによって、選抜すべき牛は異なる。マクニール氏は、経営目標を具体化した上で、それに沿った選抜指標を設定することが重要だと強調した。
ゾエティスが提供する総合指数「DWP$(Dairy Wellness Profit、乳牛健康指数)」は、乳量や乳脂肪、乳タンパク質などの生産形質に加え、繁殖性や疾病抵抗性、成長性などを組み合わせて評価する。複数の形質を一つの指標にまとめることで、牛群内の個体を共通の基準で順位付けし、健康性と収益性を両立させる繁殖計画に活用できる。

工藤牧場、受精卵や肉用種交配の判断に活用
中標津町の有限会社工藤牧場では、ゲノム検査を後継牛生産や受精卵移植、肉用種交配などの判断に利用している。牧場の牛群マネジメントを担う工藤氏は、遺伝的能力の高い少数の牛をドナーに選び、採取した受精卵も選抜することで、生まれる前から選抜圧を高めている。更新に必要な頭数を見極め、それ以外の牛には和牛受精卵や肉用種を活用し、個体販売による収益確保にもつなげている。
デラバル株式会社の搾乳ロボット3台を利用する同牧場は、乳頭配置や搾乳速度も重要な選抜項目にしている。乳頭配置が適切であれば、ロボットの装着時間やエラーを減らし、作業効率を高められる。一方、搾乳速度が極端に速い牛は乳房炎リスクが懸念されるため、単一形質を追求せず、体型や健康性を含めてバランス良く評価している。実際の農場成績でも、ゲノム評価の高い群ほど乳量や乳成分、飼料効率が良い傾向が確認された。
暑熱耐性やメタン排出量など新たな評価形質
セミナーでは、ゲノム検査サービス「クラリファイド®プラス」の新たな評価形質も紹介された。2026年には暑熱耐性やメタン排出量、余剰飼料摂取量に関する評価が追加・更新された。
暑熱耐性には、乳量に関する評価(Z_MR)と繁殖に関する評価(Z_FR)があり、温湿度指数(THI)が高い環境で乳量や受胎率をどの程度維持できるかを評価する。乳生産当たりメタン排出量(Z_MI)は、生乳1kgを生産する際のメタン排出量を二酸化炭素換算で示す。余剰飼料摂取量(Z_RFI)は、個体別の摂取量や体重、乳量などを基に飼料効率を評価する。
暑熱耐性を組み込んだ「DWP$ Heat」の評価も開始する。暑熱耐性とメタン排出量の評価はオプションで、検査結果はWebサービス「サーチポイント」で確認できる。
ゲノム検査は、優良牛を選ぶためだけの技術から、繁殖、健康管理、牛群更新、飼料効率、環境対応を結び付ける経営支援ツールへと役割を広げている。農場の目標に合った指標を定め、検査結果と実績データを継続的に照合することが、収益性と持続可能性を備えた牛群づくりの鍵となりそうだ。
【文・写真・山口昌孝】
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