top of page

《北のめん羊ワンダーランド 15》滝川の羊文化を未来へつなぐ 松尾ジンギスカン直営「松尾めん羊牧場」

8月13日
読了時間: 6分
基本的に冬季以外、放牧で飼養される
基本的に冬季以外、放牧で飼養される

滝川の羊文化を未来へつなぐ

松尾ジンギスカン直営「松尾めん羊牧場」

生産・加工・販売を一体化


 北海道を代表するジンギスカンメーカーの㈱マツオ(松尾吉洋代表取締役)が運営するのが、北海道滝川市の丸加高原に位置する松尾めん羊牧場だ。2016年の開設以来、生産から加工、販売までを一貫して手掛ける体制を強みに、北海道産羊肉の価値向上に取り組んできた。国産羊肉への注目が高まる中、同牧場は地域に根付く羊文化の継承と、新たな羊肉市場の創出を目指している。【文・写真=星野晃一/2026年5月取材】


生育ステージや性別により舎飼いする
生育ステージや性別により舎飼いする

サフォーク種のみを飼養


 現在の総飼養頭数は約230頭で、内訳は繁殖雌80頭、種雄5頭、更新用およびホゲット(ラムより月齢の進んだ羊肉)用として育成中の雌45頭、さらに当年産の子羊約100頭となっている。羊舎や放牧地の収容能力から230〜240頭程度が上限であるため、例年ほぼ同規模で推移している。

 飼養品種は全てサフォーク種。肉用羊として優れた産肉能力を持ち、北海道立畜産試験場(当時)が滝川市で長年研究・普及を進めてきた品種でもある。松尾めん羊牧場長の佐藤修章さんは「滝川の羊の歴史はサフォークの歴史でもあります。私たちもその流れを受け継ぎ、サフォークにこだわって生産しています」と話す。


副産物のリンゴ搾りかす(上写真)は嗜好性が高い
副産物のリンゴ搾りかす(上写真)は嗜好性が高い

放牧主体の飼養管理


 牧場面積は約8haで、そのうち7.5haが放牧地。採草地は保有しておらず、冬季に必要な乾草は道内各地から購入しており、主に2番牧草を利用している。

 夏季は放牧主体で飼養し、穀物給与は基本的に行わない。一方、冬季は乾草を自由採食させながら、朝夕2回の配合飼料を給与している。配合飼料には地元産の飼料米や規格外小麦を活用している。滝川地域は米・小麦の産地であり、農家や農協と連携しながら地域資源を循環利用する仕組みを構築している。

 さらに、母体企業である㈱マツオの松尾ジンギスカンの製造過程で発生するリンゴの搾りかすも副産物として活用している。羊たちにとっては嗜好性の高いおやつとなり、食品ロス削減にも貢献している。


ラムとホゲットを明確に差別化


 年間の出荷頭数は約100頭。特徴的なのは、雄と雌で出荷体系を明確に分けていることだ。雄羊は全てラムとして出荷する。雄は成長すると独特の「雄臭」が現れるため、その前に出荷することで肉質の良さを維持している。また、ラムとして出荷する雄羊は放牧を行わず舎飼いで育成し、青草由来の風味や寄生虫リスクを抑えている。

 一方、雌羊は更新用として残す個体を除き、翌年まで育成してホゲットとして出荷する。放牧を経験したホゲットは牧草由来の風味や羊らしいコクが加わり、ラムとは異なる魅力を持つ羊肉になる。

 佐藤さんは「羊肉の個性はクセではなく、うま味やコクでもあります。ホゲットにはラムにはない深い味わいがあります」と語る。


市の牛育成牧場に隣接しており、柵の間に3.5mの緩衝を設け防疫に配慮
市の牛育成牧場に隣接しており、柵の間に3.5mの緩衝を設け防疫に配慮

牧場誕生の背景に「羊文化継承」への思い


 松尾めん羊牧場誕生の背景には、北海道の羊文化を守りたいという強い思いがあった。滝川市では、1918年の「緬羊百万頭計画」に基づき、同年4月に農商務省滝川種羊場が創設された。以来、幾度かの組織改革を経て2009年度まで北海道立滝川畜産試験場として試験研究が続いていた歴史がある。また、現在の松尾めん羊牧場がある丸加高原でも1990年に市営の羊牧場が開設され、その後民営化を経て運営されていたこともあった。

 佐藤さんはもともと札幌市内で羊飼いとして働いていた。当時、その牧場では北海道内の子羊の約6割を集荷し、スキー場のゲレンデ放牧や道産ラム肉販売を行っていた。その後、観光施設の立ち上げなどを経て現在のマツオに入社し、営業担当として北海道物産展でジンギスカン販売に携わる。

 新たな商品開発を模索する中で注目したのが道産ラム肉だった。当時、滝川市にあった羊牧場から羊肉を仕入れ、物産展で販売したところ大きな反響を呼ぶ。しかし、その牧場主が高齢化により廃業を決めた。「北海道で古い羊生産の歴史を持つ滝川で、その文化が途絶えてしまうのは惜しいと思いました」と佐藤さんは振り返る。後継者探しを検討していたところ、松尾社長から「それならうちでやろう」と提案があり、2016年に松尾めん羊牧場が誕生した。

 滝川市と賃貸契約を結び、既存の畜舎は改修し、新たな羊舎として再生。羊は廃業した牧場から繁殖雌28頭と育成雌12頭、合計40頭が譲渡されスタートした。また、近親交配を避けるため、ニュージーランドからサフォーク種の種雄2頭を輸入し、新たな血統を導入している。


松尾めん羊牧場・佐藤修章牧場長
松尾めん羊牧場・佐藤修章牧場長

BCS管理で健康維持と駆虫剤削減


 疾病対策では、ボディーコンディションスコア(BCS)を重視している。羊の腰部を触診し、体況を5段階で評価する。牧場では3〜3.5を目標値として管理しており、状態に応じて給与量を調整している。佐藤さんは「BCSを良好に維持すると寄生虫被害も少なくなります。駆虫剤は極力使わず、本当に必要なときだけ群単位で実施しています」と説明する。薬剤耐性の問題が指摘される中、健康管理による予防を重視した飼養体系が特徴だ。


生産拡大へ向けた新たなステージ


 現在、牧場では大規模な拡張計画が進行している。2025年春には牧場裏手の約25haの耕作放棄地を取得し、放牧地への再整備を開始した。また、丸加高原内の駐車場用地を新たに借り受け、新羊舎の建設も進めている。新施設が完成すれば、現在の約2倍の頭数を収容できる見込みだ。

 実は数年前、東京で羊肉専門店を開業する計画も進んでいた。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大によって計画は中断を余儀なくされた。現在は再び事業拡大に向けた準備が進んでおり、将来的には専門店展開も視野に入れている。


期間限定で牧場羊肉を提供・販売


 マツオグループ最大の強みは、生産から加工、販売までを一貫して手掛けていることだ。出荷された羊は旭川市のと畜場で枝肉に処理された後、自社工場で部位ごとに加工される。

また、松尾ジンギスカン本店では期間限定の高級コース「松尾プレミアム」を展開している。牧場産羊肉を使用し、炭火焼きや煮込み料理など約10品のコース料理として提供している。「お客さまからは羊肉のイメージが変わった、部位ごとの味の違いがよく分かる」と高い評価を得ているそうだ。

 さらに、松尾ジンギスカン公式オンラインショップでは、4月29日、8月29日、11月29日の「肉の日」に合わせて牧場産羊肉の特別販売も行っている。


羊産業発展への課題と期待


 近年は羊で新規就農を目指す若者も増えている。しかし、佐藤さんは羊産業の課題として支援制度の不足を挙げる。「牛や豚に比べて補償制度や支援策が少なく、疫病で全頭を失っても十分な補償がありません。そうしたリスクが生産拡大を妨げる要因になっています」と指摘する。また、羊は繁殖効率や枝肉重量が牛や豚に比べて低いため、収益化にも時間がかかる。

 一方で、健康志向の高まりや輸入羊肉価格の上昇を背景に、国産羊肉への期待は確実に高まっている。1世紀を超えて続く滝川の羊文化。その灯を未来へつなぐ挑戦が、丸加高原で着実に進んでいる。

 

bottom of page