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《北のめん羊ワンダーランド 17》放牧を軸に持続可能な経営を追求する 北海道占冠村・トマムシープファーム

8月28日
読了時間: 5分

更新日:8月28日

有光良次・志穂さん夫妻
有光良次・志穂さん夫妻

 北海道占冠村で新規就農し、2026年で10年目を迎える有光良次・志穂さん夫妻。繁殖雌羊約70頭規模の羊肉生産牧場を営み、無雪期の放牧を主体とした飼養管理と、牧羊犬を活用した効率的な草地利用を特徴としている。北海道内外の飲食店へ羊肉を出荷しながら、持続可能な放牧羊経営を追求している。【文・写真=星野晃一/2026年6月取材】※「北のめん羊ワンダーランド」は毎週金曜日更新中!


品種はポールドーセットとサフォークとその交雑種
品種はポールドーセットとサフォークとその交雑種

繁殖雌70頭を経営基盤に年間約100頭を出荷


 現在の頭数規模は、繁殖雌羊約70頭、種雄羊5頭を中心とした構成だ。毎年百数十頭の子羊が生まれ、そのうち20頭ほどの雌を次年度以降の繁殖候補として残し、年間約100頭を出荷している。子羊が生まれた直後の総頭数は290~300頭になる。

 品種は、ポールドーセットとサフォークの純粋種と交雑種。交雑種はポールドーセットとサフォークの種雄を世代ごとに交互に利用することで、多様な遺伝構成を持つ群を形成している。そのため、個体によってポールドーセットの血統割合が75%程度のものもあれば、サフォークの割合が高いものも存在する。就農時はポールドーセット純粋種を導入していたが、交雑利用による生産性向上を期待して現在の方式へ移行した。改めてF1雑種強勢の効果に着目し、そのためにもポールドーセット純粋雌の維持・増殖に力を入れている。現在はポールドーセット純粋種の繁殖雌を約5頭、育成雌を約5頭確保している。

 羊肉は主に関東・中部・関西圏、札幌などの飲食店へ枝肉として販売している。最初の取引先は、占冠村役場から紹介された札幌のフレンチレストランで、その後は飲食店間の紹介やSNS、イベントでの出会いなどを通じて販路が広がった。現在は既存顧客向けの供給でほぼ出荷枠が埋まっており、新規販路を積極的に開拓する段階ではないという。


放牧適性を重視しポールドーセット


 良次さんがポールドーセットを導入した背景には、前職での経験がある。夫妻はともに、北海道恵庭市で農業、飲食、物販、観光などの事業を行う「えこりん村」で勤務していた。えこりん村の羊生産部門ではポールドーセット種を1,000頭近く飼養しており、実際に放牧環境で良好な発育を示す様子を見てきた。

 独立後も放牧主体の経営を目指していたため、日本国内で比較的舎飼いが多いサフォーク単独ではなく、放牧適性に優れると考えたポールドーセットを基礎に据えた。さらに、国内環境への適応力や肥育性能を期待してサフォークを組み合わせることで、「放牧への適応性」と「日本の飼養環境への適応性」の両立を狙っている。


13haで輪換放牧
13haで輪換放牧

電気牧柵を移動しながら13haで輪換放牧


 放牧地の面積は非農地も含めて約13ha。良次さんは「放牧飼養管理先進国のニュージーランドでは1ha当たり15頭程度を目安とする例もあるけれど、日本では気候条件や冬期飼料確保の事情が異なるため、1ha当たり10頭程度では」と考えており、放牧地はやや不足気味に感じている。

 徹底した輪換放牧を採用し、放牧地を電気牧柵で細かく区切り、羊群を短期間で移動させながら利用している。広い面積の大牧区だと好む草だけを選択的に採食するため、好まれない植物が増え、草地生産性が低下する。そのため、小牧区で適切な放牧圧を維持しながら均一に採食させている。

 その際、草の生育速度や季節変化、羊群の栄養要求量、群ごとのライフステージなどを考慮して放牧区を変更している。例えば、授乳中の母子群には栄養価の高い草地を優先的に利用し、その後に育成群を入れるなど、極めて計画的な草地利用を行っている。この管理手法は、妻の志穂さんが前職のえこりん村でニュージーランド式放牧管理を学んだ経験が大きく生かされている。

 草地には肥料や堆肥の散布をほとんど行っておらず、基本的には羊の排せつ物だけで循環させている。近年、更新した草地と長年利用している草地では牧草の生育に差が出始めているため、今後は土壌分析を実施し、不足している養分やミネラルを把握した上で、効率的な施肥管理を検討する方針だ。

 また、放牧経営で課題となる寄生虫対策については、糞便検査を実施しながら、必要な個体だけを選択的に駆虫する方法を取り入れ、薬剤耐性の発生低減に努めている。良次さんは「日本では羊用の駆虫薬の選択肢が少なく、海外からの個人輸入もさまざまな理由から難しい」とし、公的機関の支援が比較的少ない羊業界の課題と捉えている。

 冬季は舎飼いとなり、その時期の牧草は近隣農家からの購入で賄っている。理由は明確で「経営判断」だ。採草にはトラクター、モーアコンディショナー、レーキ、ロールベーラー、運搬機械など多額の設備投資が必要になる。また、使用期間が年間数週間に限られるため、機械の維持管理費も大きな負担になる。繁殖雌70頭規模では購入する方が合理的との判断だ。


体験型牧場の勤務を経て独立


 良次さんは愛媛県出身。大学では中国語を専攻し、その後は犬の訓練士を目指して専門学校へ進学した。卒業後、えこりん村の立ち上げメンバーとして参加し、観光部門の牧羊犬のトレーニングやシープドッグショーの運営に携わった。

 13年間勤務する中で羊飼いへの思いを強め、同じくえこりん村の羊生産部門で働いていた志穂さんと結婚。独立を決意した。就農先の占冠村では、地域おこし協力隊として鳥獣対策業務や地域活動をしながら就農準備を進め、地域との信頼関係を築いた後、現在の牧場経営へと移行している。


将来見据え牧羊犬も重要な経営資源


 今後について良次さんは、「繁殖メス70~80頭規模で無理なく成立する放牧羊経営モデルを実現したい。そのためには、羊が能力を最大限発揮し、牧草で健康に育つ環境を整えることが大切」と語る。羊肉価格の上昇だけに依存するのではなく、放牧による飼料コスト削減や草地利用効率の向上を通じて、持続可能な収益構造を築くことが重要だと考えている。

 また、牧羊犬も重要な経営資源だ。放牧管理に欠かせないだけでなく、犬の訓練指導や繁殖販売も将来的な収入源として位置付けている。現在も牧羊犬の預託訓練を行っており、将来的には自家繁殖した子犬の販売による収益拡大も視野に入れている。

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