《北のめん羊ワンダーランド 7》めん羊産業のこれから 流通、公的支援、NZ連携の可能性
- 7月10日
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めん羊産業を支える仕組みをどう作るか
流通、公的支援、NZ連携の可能性
血統登録や飼養管理の仕組みは、めん羊を産業として支える基盤になる。だが、情報交換の場、種畜の融通、羊肉の流通、家庭向け普及、公的支援など、整えるべき課題はまだ多い。最終回は、北海道めん羊協議会の活動や行政支援、ニュージーランドとの連携を通じて、日本のめん羊産業のこれからを考える。
(聞き手・構成=星野晃一/全7回の7回目/2026年4月2日取材)
ゲスト 北海道めん羊協議会会長・武藤浩史さん
同顧問・河野博英さん
羊を支える組織と情報交換
――前回は、個体識別や血統登録の必要性について聞きました。めん羊改良を支える組織や制度は、どのような経緯で現在の形になったのでしょうか。
武藤 経緯を話すと、2003年まで日本緬羊協会というのがあって独立した組織として存在していたんです。戦後、100万頭飼養していためん羊が盛んだった頃に、羊農家の出資でつくられました。今の文京区湯島にある技術協会のビル・土地は元々、緬羊協会が所有していました。それが、農水省の外郭団体の編成によって、緬羊協会が建てたビルを間借りしていた技術協会が不動産を引き継ぐことになったんです。
河野 当時は各都道府県に登録協会があり、めん羊の改良が行われていました。今はもう豚などに変わってしまって、みんななくなった。
――種畜の融通や飼養技術、国内外の情勢など羊に関する情報交換はどうやって?
武藤 羊飼い同士が個別につながっている感じですね。飼養戸数は多くないので、ある程度長く経営していたら大体どこに誰がいるか分かります。北海道めん羊協議会では研修会の開催やめん羊通信を発行しています。畜産技術協会でも季刊誌「シープジャパン」を発行しています。
地域ごとの羊飼いの状況
河野 福島県には以前、めん羊の市場が唯一あったんですが、震災に伴う原発事故で閉鎖されました。もう一つ、栃木県の御料牧場からの払い下げが東北の供給場所でした。
福島は昔、日本の羊飼いの中心地だったんですよ。肉の消費はそれほどでもないけど、種畜を生産するグループがいたんです。原発事故の前にそうした方々は高齢化が進んではいましたが、原発事故で県内の羊は全部ダメになり、外にも出せなくなりました。
――西日本はどんな状況ですか。
河野 今、羊牧場があるのは九州の阿蘇と大分くらいかな。熊本では以前、放牧であか牛を飼養していましたが、それが少なくなって、羊を放牧しようというグループがいます。熊本の東海大学も関わっています。
武藤 羊は多湿に弱い。暑くてもいいんだけども、湿度が問題なんです。
羊肉の販売先と流通
――肉の販売先はみなさんどうやって見つけてくるんですか。
武藤 ほぼ農家ごと、個別に自分で見つける感じですね。今だったら黙っていても問い合わせが結構あります。肉の卸業者からも話が全くこないわけではありませんが、最終価格がさらに高くなるし、売る側、買う側の双方にメリットがありません。
――高級レストランと一般的な焼肉屋では求められる肉に違いがありますか。
武藤 現状はほとんどが枝肉流通です。と畜場など地域の加工施設で脱骨したものを1頭売り、あるいは半頭売りするのがほとんどです。細かくカットしたり、この部分をラムチョップにして、というニーズに応えてくれる加工施設はほとんどありません。うちはと畜場から枝肉として引き取ってきて、全て自分の施設で加工しますが、そうした施設を持っている人はごく一部ですし、投資と手間がかかります。
買う側からするとパーツ流通してもらった方が使いやすいけど、売る側は加工の手間を考えると枝肉のままがいいからです。だから部位ごとにさばけるプロの料理人だったり焼肉やジンギスカンの店じゃないと扱えない。コースで何万円もするレストランに行くとか、ジンギスカンの店にしても国産だと1人前2,000~3,000円もする店になってしまう。売る側からすれば高級肉で定着することは別に悪いことじゃないんですけど、家庭で食べたいというニーズには応えられていません。キャンプ場でラムチョップ焼いて食べたな、と思ってもなかなか手に入らない。肉屋にもほとんど売ってないし。
――家庭用が普及するにはどうしたら。
武藤 業務用として枝肉ではもう売れないような状況になったら家庭用向けに動くかもしれません。うちがどうして加工もやっているかといえば、以前は枝肉では誰も買ってくれなかったからです。生肉で提供しないと国産の価値はないけど、当時は「枝肉で仕入れて全部さばき切るなんて無理ですよ」と言われました。大きなホテルとかイベントなどでようやく枝肉で取ってくれたり、昔は枝肉で仕入れて羊の焼肉専門店を経営していた会社が1軒あってそこが道内で流通していた半分以上を買い付けていたようです。
当時は、どうして羊肉が豚肉より高いんだ、という認識です。でも羊肉を本当に普及させるには家庭でも食べられるようにするのが良いと思っていますし、私の当初からの目標は羊を「テーブルミート」にすることです。
公的支援と技術継承の必要性
――協議会としての今後の活動方針などありますか。
武藤 さっき話したような技術的なフォローアップができたらいいのですが、限界があるので方向付けまでやれたら、とは思います。そのためにはやはり公的機関が支援、予算組みをしてもらわないと。
――羊で新規就農したい人に対するフォローアップはこれまで通り各牧場に相談に行ったら個別で受け付ける感じですか。
武藤 国なり北海道に、羊の新規就農者に対する支援をしてほしいという要望はしています。例えば良い家畜を導入できない現状があるので、何らかの助成をするとか。道には新得の畜産試験場の種畜が枯渇していたのでNZから4頭の生体輸入をしてもらいました。
また、人工繁殖技術の普及に向けて獣医師向けの講習会開催も3年続けました。その時に凍結精液を100本輸入したんです。
河野 その事業が終わって2024年からはコンサルタント事業として、希望する牧場に年3回行き技術指導しています。秋には講習会も開きます。
武藤 ただ、道の予算は毎年減額されて今は180万円ぐらいなんで、以前のように羊を輸入することなんてできなくなりました。以前は300万円ついたので、当時の価格で4頭輸入できたのですが。まあ、何でめん羊のようなマイノリティーな分野に予算をつけなければならないのか、と言われればそれまでなのですが、新規就農者を求めるのであれば、もう少し前向きに捉えてもらえないかと思います。面積が狭かったり地形的に大型機械が入りにくく牛の牧場としては難しいけど、羊だったら十分にやれる所を新規就農者にあっせんしていくことは全道規模でやってもいいと思います。
農家とか業界に直接予算付けをお願いしても現状は難しいので、例えば新得の畜産試験場の規模、技術者を維持してほしいとか、違う形の支援を求めないとならないかもしれません。滝川の畜産試験場は以前、中小家畜研究の拠点でしたが、新得に統廃合されて職員は異動、その時の職員は今みんな定年再雇用でかろうじて残っておられる状態です。その再雇用の人だってここ1、2年でいなくなっちゃう。そうなると、道の畜産試験場で羊のことを知ってる人はいなくなります。以前は畜産試験場にめん羊の専門研究員がいて飼養管理のことを聞いたら答えてもらえたし、年間100頭レベルで払い下げもしてくれました。
今後は、羊を振興することはこういう役に立つんだというような論理立てをして、予算を出してもらいやすい流れをつくらないと。
河野 家畜改良センター十勝牧場も同じで、とにかく技術者が育っていない。何とかめん羊の後継者を育てていかなくてはいけないと思っています。めん羊の近交係数も上がっています。うまく新得の畜産試験場と協力して、血統の入れ替えとか、今いる個体の精液を保管するなどしないと手遅れになってしまいます。
草地造成とNZ連携の可能性
河野 あと、めん羊支援のための論理として、草地造成の役割を前面に出してPRすることも考えられます。今、野生動物の被害が大きな問題になっていて、人と動物がすみ分けするゾーニングが注目されています。そのゾーニングの中間地帯に飼うには中小家畜が最適なんです。遊休農地が増えていて、ここが荒れているから野生動物が入ってくる。府県ではそこに羊を入れて草を食わせる取り組みが一部で始まっています。
また、近年、輸入木材が高騰して、国内の森林伐採が進んでいます。そこに農業と林業を組み合わせた「アグロフォレストリー」の考えを導入して羊を飼う。こういった提案を発信して理解を求めていくことが大切です。
――2018年にNZ政府などが主催し道などが協力して「ニュージーランド北海道羊協力プロジェクト」がありましたが、どうでしたか。
武藤 事業にかかる経費は、資材販売会社とNZの食肉会社が出してくれたのが実態です。うちの牧場を含めて3つの農場で調査したり、NZのコンサルタントを講師としたオンラインセミナーなどを行いました。結果、群れとしての羊の管理方法など参考になったほか、NZ大使館とパイプができたのも大きかった。大使館が協力してくれたおかげで精液の輸入が可能になったんです。
わずか100本の輸入で、NZ政府にとっては継続的な利益につながる取り組みではなかったはずですが、プロジェクトを通じて情報交換するうちに「日本の羊飼いは大変だね」と思って骨を折ってくれたんじゃないですかね。
こうして考えると、日本の公的機関が支援してくれないなら、海外の研究機関と協力する手はあるかもしれません。また、そうするうちに日本の行政も動いてくれるかもしれません。
――本日は長時間にわたりありがとうございました。めん羊飼養、羊肉のみならず、日本の畜産・食肉の将来を考える上でも非常に示唆に富むお話でした。
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