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《北のめん羊ワンダーランド 16》牛と羊が共存する牧場で新たな挑戦 北海道帯広市・愛二牧場

  • 4 日前
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育成ステージごとに5つの畜舎で飼養管理❶
育成ステージごとに5つの畜舎で飼養管理❶

牛と羊が共存する牧場で新たな挑戦

育成ステージごとに畜舎で管理


 北海道帯広市で羊約300頭と肉牛300頭を飼養する愛二牧場。羊部門を担当する金森善三郎さんは、自身の考えを取り入れた飼養管理の実践や加工・直売所、ファームインの開設など、両親が築いた牧場で新たな挑戦を始めている。【文・写真=星野晃一/2026年6月取材】


育成ステージごとに5つの畜舎で飼養管理❷
育成ステージごとに5つの畜舎で飼養管理❷

F1の肥育素牛、黒毛、羊を飼養


 愛二牧場は、羊約300頭のうち繁殖雌が約110頭、種雄が3頭で、更新用の育成羊が30頭ほどの頭数規模だ。年間120~130頭を出荷しており、品種はサフォークとポールドーセットおよびその交雑種が中心。

 羊の放牧地は約8haで、こちらは繁殖雌を放しており、他は育成ステージごと5つの畜舎で管理している。一方、牛部門では乳牛の雌に黒毛和種の精液を授精したF1(交雑種)の育成を中心に常時約300頭を飼養している。また黒毛和種も約20頭おり、自家繁殖に取り組んでいる。肉牛部門も羊と同様に育成ステージごとの舎飼いだ。「両親(増田愛二郎さん・真由美さん)は帯広畜産大学を卒業後、新規就農で牧場を始めました。羊と牛を同じタイミングで導入して今のスタイルをつくってきました。羊だけでは経営が不安だったのでしょう」


金森善三郎さん
金森善三郎さん

羊部門の飼養管理は1人で


 三男の金森さん(結婚して妻の姓)は北海道大学理学部を卒業後、一度牧場へ戻ったが、その後、再び外へ出て全国各地の農業を経験している。果樹、ワイン用ブドウ、多品目野菜、養豚、養鶏など、自分が経験したことのない農業を積極的に見て回った。「牛や羊の世界はいつでも見学できます。でも他の農業は、自分から動かなければなかなか見る機会がない。せっかくなら経験したことのない分野を見てみたいと思いました」

 こうした経験を経て実家へ戻り、現在は羊部門の飼養管理をほぼ1人で行っており、両親は牛部門を中心に担当している。「牛の業界は技術体系や評価基準が確立されているけど、羊は生産者ごとの工夫が生きる余地が大きくて面白いので、羊の方が好きですね」


肉牛の飼養地とは車庫と防風林でセパレート
肉牛の飼養地とは車庫と防風林でセパレート

車庫と防風林で飼養地を分割


 牛と羊を同時に飼養する上で課題となるのが感染症対策だ。牧場では牛と羊の飼養地を車庫と防風林を境界にして分割。「接触しないようにしています。それで100%防げるとは言えませんが、牛と羊の間で問題となる感染症はこれまで発生していません」

 堆肥利用にも工夫がある。羊の堆肥は近隣の畑作農家へ供給し、羊の草地には牛の堆肥を散布している。「羊の堆肥を羊の草地へ戻すよりも、牛の堆肥を使った方が寄生虫リスクを減らせるのではないか」という考えだ。

 駆虫方法も近年見直した。以前は春先や分娩前に定期駆虫を行っていたが、現在は症状が見られる個体だけに処置している。「元気な羊に薬を使う必要はないと思っています。薬剤耐性の問題からも必要な個体だけの投薬に切り替えています」


繁殖雌羊は放牧飼養
繁殖雌羊は放牧飼養

土壌分析、集約放牧など新たに実践


 牧場では採草地を持たず、粗飼料は全て購入しているため、限られた放牧地を有効活用することが大きなテーマだ。以前は土壌分析をほとんど行っていなかったが、金森さんは現在、年1回の分析を実施している。さらに、長沼町でリジェネラティブ農業(大地再生農業)を実践する農場の考え方に触れたことをきっかけに、放牧方法の改善にも取り組んでいる。「肥料を増やすのではなく、管理の仕方で土壌を改善していく考え方に興味を持ちました。理論がしっかりしていたので試してみようと思ったんです」

 集約放牧の区画当たりの頭数密度を高めるなど、土壌や草地への影響を見ながら試験的に取り組んでいるところだ。


羊肉の販路拡大にも挑戦


 羊肉は主に道内外の飲食店へ枝肉で直売している。新規の問い合わせも多く寄せられているが、現在は既存取引先への供給を優先している。一方でこのほど、同じ十勝管内の羊農家と共同で、芽室町に加工場と直売所を兼ねた施設を開設した。「1頭買いはできないけれど食べてみたい、という声が以前からあり、部位ごとの加工販売を行うことにしました」

 羊肉の価格が高騰する中で、より多くの消費者に国産羊肉を届けることも金森さんの目標の一つだ。


2026年2月にオープンしたファームイン「ベルダのおやど」(写真は共有スペースの居間)
2026年2月にオープンしたファームイン「ベルダのおやど」(写真は共有スペースの居間)

空き部屋を活用しファームイン


 2026年2月には、妻の秋波さんが中心となって運営するファームインを開始した。金森夫妻の住居の空き部屋を活用した宿泊施設で、宿泊客は羊への餌やり体験ができ、夜には牧場産の羊肉を味わうこともできる。集客はSNSのみだが、北海道外からの利用者も多く、中にはこの牧場に泊まりたくて北海道へ来る人もいるそうだ。「想像以上にお客さんが来て驚いています。作業が忙しい時期はちょっと困るくらいに(笑い)」

 宿泊客は朝夕の餌やりを体験し、羊の群れの中で過ごすこともできる。小さな子ども連れの家族も多く、羊との触れ合いを通じて成長を感じる保護者も少なくない。

 もちろん防疫対策は欠かせない。車両の進入制限や石灰散布などを行っているほか、利用者には長靴の履き替えを徹底し、海外渡航歴や他牧場訪問歴も事前に確認している。「リスクはありますが、実際の牧場を見て何か感じてもらえたらと思っています」


繁殖成績を高め安定した出荷に


 経営だけを考えれば、牛部門に特化した方が効率は高いかもしれない。「父は羊を趣味みたいなものだと言っています。でも、羊が放牧されている風景そのものが好きなんだと思います」と金森さんは話し、限られた土地面積で規模拡大より繁殖成績を高めて、より少ない繁殖頭数で安定した出荷を実現したいと考えている。

 父が築いた牛と羊の複合経営を受け継ぎながら、新しい技術や考え方を取り入れていく金森さん。牛と羊が共存する自分らしい畜産の形を目指している。

 

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