《北のめん羊ワンダーランド 12》羊肉を4番目のテーブルミートへ 東洋肉店が続ける価値の届け方
- 7月14日
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更新日:7月26日

羊肉を4番目のテーブルミートへ
東洋肉店が続ける価値の届け方
牧場と店の直接取引が多い羊肉。その中で、羊肉の黎明(れいめい)期から専門店としてウェブ販売を続けてきたのが、北海道名寄市の㈱東洋肉店だ。同社代表取締役でラムバサダーの東澤壮晃さんは、北海道めん羊協議会の講演で、北海道産羊肉の価値を届け続ける大切さを訴えた。前編では、東洋肉店の歩みや羊肉専門店としての取り組み、羊肉の価値を見極めて届ける販売の考え方を、東澤さんの講演から紹介する。
(構成・写真=星野晃一/前後編の前編/2026年5月収録)
羊肉専門のウェブ販売へ
北海道名寄市で、羊肉精肉店というちょっと珍しい形態の食肉販売をしています。
1996年に食肉店2代目の父が突然倒れて、当時23歳だった私は、教わる間もなく店を継ぐことになりました。普通なら既存の取引先とか地元のネットワークに頼って奔走するんだと思いますが、私は1998年に独学で羊肉専門のウェブサイトを立ち上げました。
当時はほとんどの人がダイヤルアップ接続でネットを見ていた時代ですが、生き残るためには、他人には代わりが効かない発信手段を手に入れるしかないと、睡眠時間を削って専門書と格闘して立ち上げました。
最初は、店舗で製造していたジンギスカンをネットで売っていましたが、ジンギスカンは北海道のローカルな郷土料理でターゲットが限られているので、次第に羊肉の全てを扱う専門店へとサイトの方向性をシフトしました。
羊肉、つまりラムとかマトンというカテゴリーに広げれば、フレンチ、イタリアン、中華、あるいは世界中の羊肉料理をつくりたいと思っている全国のレストランや消費者がターゲットになります。インターネット通販の利点を生かし、羊肉というニッチな市場へ挑戦したのです。
さらに、専門性を突き詰めるため、オーストラリアはもちろん、世界中の羊肉や羊肉料理を研究しに行きました。その中で、2015年頃にはオーストラリアの食肉生産者団体と一緒に、オージー・ラムをPRする「ラムバサダー」というチームも立ち上げました。ラムのアンバサダーでラムバサダーです。今はタイやベトナムなど東南アジアで、現地のプロのシェフに向けた羊肉の講師もやっています。
肉とワインを一緒に楽しむ
また、年に数回訪れるオーストラリアで羊肉の買い付けをした際、現地の関係者から毎晩ワインを飲まされた縁で、専門教育を受けていないにもかかわらず、オーストラリアワイン・スペシャリストっていう資格の保持者に選ばれてしまいました。
羊という動物は、その土地の土に生えた草を食べて育ちます。そしてワインのブドウも、全く同じ土壌と気候の中で育ちます。ということは、ワインと同じ環境で育った羊肉は、同じ風味の構造を持っているはずです。羊肉を最高においしく楽しんでもらうには、肉単体を売るのではなく、肉とワインを一緒に楽しむ必要があると気づきました。
ただし、羊肉とワインの関係を理解して、世界のプロに教えているからと言って、神わざのような包丁さばきを会得しているわけではありません。相手の国の宗教的な制約とか、日常的にどういうスパイスを使っているかという前提を深く理解した上で、「じゃあ日本のこの技術とあなたの国のこの文化を掛け合わせたら、お互いにすごく面白い仕事になりませんか」と提案するのです。
良いものをつくるのは大前提として、それをどう文化として伝え、価値として届けるかが重要です。
1頭ごとに価値を見極める
さて、ここからが本題です。農家さんから出荷された羊に、私がどう価値を付け、どういう経路で販売しているのか、リアルにお話ししたいと思います。
初めて北海道産の羊に触れてから約25年、毎週1~2頭ずつさばいてきました。その中で見えてきたことについて、最終的に口に入れる消費者への目線でお話しさせていただきます。
日本全国、羊肉専業でやっている店は、多分2軒しかありません。われわれが家庭向けに販売する場合、いつ届き、いつ食べるかを考え、その間に羊にどういう変化が起きるかも全て予想して送ります。
もし、熟成し過ぎたり、完全にプロ向けの肉を一般の消費者に何も言わずに売ってしまったりしたら、羊農家さんがせっかく育てた羊の価値が本来とは全く違う形で伝わってしまいます。通販は店頭で売るのとは全く違って、予期せぬ事故がたくさん起きるので、それを防止するために色々研究を重ねています。
また、どのようなロスが出やすいのかも気になると思います。私は1頭1頭、品種の掛け合わせや、月齢、性別、そしてその羊から、例えば肩ロースは何kg取れたかなど、約20年にわたりデータを細かく取り続けています。
実際に羊肉を分析するためのアプリを作製してデータを見える化し、1頭につきこの部位は何%取れたかとか、一目で分かるようになっています。そして分析シートで歩留まりや包装、時間、人件費などすべてデータ入力してコスト計算し、販売価格を算出できるようになっています。
昔は本当にどんぶり勘定で、「いい羊だからこのぐらいの値段で売ろう」とか、やっていたんですけど、ある時大変な失敗をして、その反省からこのシステムをつくりました。
ただ、これでもう失敗はしないだろう、実際に売れればそれなりの利益は出るだろう、と思いましたが、実際はそう甘くありません。数字だけではやっぱり物は売れない。
初めて私が北海道産の羊を扱ったときは、本当に売れなかった。まずオーストラリア産やニュージーランド産との価格差がありすぎたこと。そして道産羊の価値がまだ形成されていなかったことが原因でした。
今でこそ一部で「北海道の羊は希少でおいしい」と言われるようになりましたが、その時は、例えばフランスのプレサレ(高級子羊肉)と似た風味の羊ですと言っても、一般のお客さんには分からなかった。グレインフェッド(仕上げに穀物を給与して飼養)とグラスフェッド(牧草を中心に給与して飼養)の違いも、一部の料理人は理解して使ってくれる場合はありましたが、当時はほとんど知られていなかった。つまり、われわれは誰にとって良い羊かということを考えずに売っていたのです。
大事なのは、価値をわれわれがきちんと見極めて、なぜこの羊なのか、どんな人に食べてもらいたいのか、お客さんに伝えながら販売することだったのですが、この目線がずれていたために見向きもされなかったということです。
「食べてみたい」と思わせる羊に
そこで、お客さんが北海道の羊を選んでもらう理由をつくっていきました。売ることだけでなく、農家の思想や背景など全て含めた上で、「こんな羊だったら食べてみたい」と思わせる羊を、自分たちの文章などで育てていくというアプローチに変えました。
その際、農家が「誰にとってどんな良い羊か」と最初から決めて育てたり、「こうであればいいな」との思いが明確な方が僕らも当然売りやすい。逆に「何となく最近人気だから育ててみた」という羊は非常に売りづらい。それは、お客さんに伝えるストーリーが見つからないからです。
こうして、北海道の羊の価値を段々上げていく取り組みをしてきました。一つの部位を売るにしても、必ず自分の言葉を添えて、この1頭から取れた外モモはこのように脂が付いていて、このように焼けばおいしいですよとか。入荷する羊によって文章を変えるので、手間と時間がかかります。
羊肉の加工品もやっています。主にオーストラリア産でつくっていますが、一部道産の羊でつくれる物もあって、例えば、切り落とされた部位や、背脂の質の良い部位、穀物で育てて融点が低い肉の羊など、それぞれの特徴がうまくかみ合った時に、赤身と脂を混ぜてラムのサラミをつくったりします。5~6頭をうまくブレンドしたりして。
また、精肉として売りづらかった部位はテリーヌにしたりと、いろいろ工夫して、羊肉の価値というものを下げず、安売りはせず、農家が大事に育てた羊を無駄にしないように一生懸命やっています。
実際、何が面白くてこんなことをやっているかというと、大きな問屋から豚ロース10本を仕入れるという肉屋のスタンスではなく、農家さんから直接1頭を仕入れて、私1人できちんと何十頭もさばいて、自分で写真を撮り、自分の言葉で部位ごとに表現して、お客さんに見せて、それに共感して買ってもらうという、このプロセスがすごく楽しいんです。
正直、あまりにも時間をかけ過ぎているので商売としてどうかと思いますが、羊を通して何かを伝えることが好きなのだと思います。
「日本の羊肉を牛、豚、鶏に続く4番目のテーブルミートにする、家庭の食卓に乗るお肉にするっていうのが僕の夢です」と20年以上前にテレビで語ったことがあります。豚の代わり、牛の代わり、鶏の代わりではなく、羊肉自体の立ち位置を日本の市場につくりたい。それがあってずっと続けています。
◇
後編では、小規模な牧場が多い北海道ならではの多様性や、ブームに流されず羊肉の価値を届け続けることについて、東澤さんの考えを紹介する。
【プロフィール】
●東澤壮晃(ひがしざわ・もりあき)
1973年北海道名寄市生まれ。札幌日本大学高等学校を卒業後、語学留学など海外経験を経て、1996年に家業の精肉店・㈱東洋肉店を継承し、代表取締役に就任。1998年に当時珍しかった羊肉専門販売のウェブサイトを立ち上げ、販路を全国に広げるとともに、羊肉の魅力や食文化の普及に取り組む。オージー・ラムPR大使「ラムバサダー」、オーストラリアワイン・スペシャリストの資格を持つ。
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