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「比べる勇気」持ち大舞台へ 岡山県真庭市・長恒牧場

  • 7月8日
  • 読了時間: 7分

更新日:7月27日

長恒牧場の長恒泰裕さん。乳房と尻の改良を軸に、経産牛でも勝負できる牛群づくりを進めてきた
長恒牧場の長恒泰裕さん。乳房と尻の改良を軸に、経産牛でも勝負できる牛群づくりを進めてきた

 2026年7月に沖縄県那覇市で開かれた第53回全国酪農青年女性酪農経営発表大会で、岡山県真庭市の有限会社長恒牧場の長恒泰裕さんが最優秀賞(農林水産大臣賞)に輝いた。精密な個体管理と省力化による高水準な乳量・乳質の実現、地域の休耕田を活用した自給飼料生産、循環型酪農の実践などが高く評価された。

 冠名「ロンゲスト」を掲げる長恒牧場では、父・泰治さんの代から体型改良に力を入れ、主に未経産の部で数々のショーリングに輝きを残してきた。後を継ぐ泰裕さんは、乳房と尻の改良を軸に磨きをかけ、経産牛でも勝負できる牛群を築いた。本記事は、2025年10月の全日本ホルスタイン共進会北海道大会を前に、牛群改良への考え方や日々の飼養管理を取材した当時の記事を改めて紹介するものだ。

 ※本記事は、月刊『デーリィマン』本誌(2025年10月号)に掲載した記事を、デーリィマンプラス向けに一部体裁を整えて掲載するものです。


ロンゲスト ユリアナ GC チヤネラー(VG-89)
ロンゲスト ユリアナ GC チヤネラー(VG-89)

自分が育てた牛の理想像、GC チヤネラー


 2025年春の第9回おかやまB&Wショウで、長恒牧場の牛はグランド・チャンピオン(GC)、ジュニア・チャンピオン(JC)を獲得し、勢いを示した。泰治さん(72)の代では、地元開催の第11回全共(2000年)でJC、第12回全共(栃木県、05年)でジャージーの部JCと、主に未経産の部で実績を残してきた。

 その流れを受け継ぐ泰裕さん(39)は、高校時代は野球部で甲子園を夢見たが、酪農の道に進むことを早くから決めていた。酪農学園大学へ進学し、卒業後はアメリカ・ウィスコンシン州のローズデール牧場で研修。09年に実家で就農した。「底面の低い乳房や、ハイピン(尻の高い)の牛が多かった」と泰裕さん。当初から「経産牛で勝てない」という課題を突き詰め、乳房の高さと尻の構造の改良に重きを置いて種雄牛を選定。それを5、6年積み重ねていき、中国地区B&Wショウで3回グランド・チャンピオンを獲得するなど経産牛でも勝負できる牛群を築いた。

 その代表的な成果がロンゲスト ユリアナ GC チヤネラーだ。祖母に当たる牛を北海道根室管内別海町から受精卵で導入し、その娘牛・ロンゲスト ユリアナ ドレークETが3産目で生んだのが本牛。小柄ながら全体のバランスが良く、乳房形状が際立つ牛で、19年の中国地区B&WショウでGCを獲得。本誌の第40回オールニッポン・ホルスタインコンテストでも準オールニッポンに名を連ねた。「自分が育てた牛の理想像」と泰裕さん。

 ただGC チヤネラーには忘れられない試練もあった。19年の新牛舎移転直後、中国地区B&Wショウで勝利を収めた勢いのまま、セントラルジャパンホルスタインショウ(静岡県御殿場市)に挑んだが、道中で第四胃変位を発症。会場に着いた時には歩くのもやっとの状態だった。現地の獣医師や仲間の酪農家らの支えで何とか乗り切ったものの、「あのときは牛に申し訳なかった」と悔しさをにじませる。GC チヤネラーはその後、9歳まで繁殖を重ねたが、泰裕さんにとっては勝利と後悔が同居する特別な牛だ。

 近年はロンゲスト ラマニア サイドキツク ルル、ロンゲスト MS ハクセル リコライス、ロンゲスト マダム KD ゴードンなどが頭角を現し、岡山県畜産共進会やおかやまB&Wショウ、中国地区B&Wショウを席巻。KD ゴードンは岡山県畜産共進会(23年)でGCを獲得するとともに、1乳期で1万9,600kg、ピーク日乳量75kgという驚異的な記録を残し、牛群改良と飼養管理の成果を体現してみせた。

 改良の加速のため3年ほど前からゲノム検査を受けている。乳器の指標の高い牛を積極的に残しつつ、乳量とのバランスも取っている。「すぐに結果は出ないが、長い年月をかけてこそ成果が出る」。採卵も並行して進めるが「名牛の娘が必ずしも名牛になるわけではない」と難しさも実感。それでも遺伝的改良と飼養管理の積み重ねで牛群を前進させる姿勢を保つ。


19年から稼働する新牛舎。白い外壁と妻・久花さんの植えた背の低いヒマワリが青空に映える
19年から稼働する新牛舎。白い外壁と妻・久花さんの植えた背の低いヒマワリが青空に映える

トンネル換気の害虫侵入防止は想定以上の効果


 長恒牧場は1974年、中国四国酪農大学校(岡山県真庭市)を卒業した泰治さんが2頭の乳牛から興した。2019年に現在の牛舎に移転し、搾乳牛は56頭から100頭へ、総頭数は190頭(うち経産牛120)に拡大。年間出荷乳量約1,300t、個体乳量1万1,500kgで、乳質は乳脂率4.0%、乳タンパク質率3.41%、無脂固形分率8.91%、体細胞数9万個/mLと良好な水準を誇る。近年は乳量が伸びていて、今年は夏場でも日乳量40kgを下回らないなど安定して高い水準を保っている。

 牛舎にはトンネル換気システムを採用。暑熱対策や結露防止、臭気・粉じんの抑制などの効果があるが、アブやサシバエの侵入防止は想定以上だった。近年は牛の頭上に8台の送風機を設置し、猛暑でも快適性を維持。「害虫がいないだけで牛の落ち着きは全く違う。改良成果を発揮できる環境を整えることが大事」

 経営の基盤になっているのが自給粗飼料だ。泰裕さんは苗代ロールベーラー組合の代表も務める。半世紀続く歴史ある組合で、全約100haのうち、長恒牧場は40haを担当。冷涼な気候を生かし生産するのは全てチモシーで3番草まで刈っている。餌は自給のチモシーの他、アルファルファ、配合飼料、ビール粕、ビートパルプなどを自家調製しTMRにする。

 「チモシーは牛が一番おいしそうに食べる。夏枯れが進む中でも、標高が比較的高い地の利を生かし、再生力の強い品種選定や刈り取り時期の工夫で今後もつくり続けたい」


牛床を掃除する長恒さん。日々の作業を同じように積み重ねる規律が、牛のリズムを守る
牛床を掃除する長恒さん。日々の作業を同じように積み重ねる規律が、牛のリズムを守る

「同じことを同じように繰り返す」規律が牛のリズム守る


 泰裕さんは「ショーに出す牛だから特別に扱うことはしない。普段の飼養管理の延長線上にショーがあるのが理想」と考える。この言葉の根元には、母・京子さん(68)の教えがある。

 「ショーは自分の牛群のレベルを確かめる場」。少年だった頃に聞いたその一言は、胸に深く刻まれている。他の牛と比べて、足りないものは何か。発育の度合いはどうか。ただ眺めるだけでは見えない差を、リングに立たせ、歩かせることで初めて突き付けられる。母の言葉があったから、泰裕さんは「比べる勇気」を持ち続けてきた。その勇気を支えるのは決して派手ではない毎日の積み重ねだ。

 朝の給餌、決まった時間の搾乳、牛の表情を読み取る目。どれも特別なことではない。だが「同じことを同じように繰り返す」その規律が、牛のリズムを守り、結果としてリングに立つ強さへと変わっていく。「特別な方法で仕上げて勝つ牛より、普段の管理の中から勝てる牛を出したい」。それが泰裕さんの哲学で、ロンゲストの血を未来へとつなぐ信念だ。

 今年の全共で岡山県に与えられたホルスタインの出品枠は6頭(うち1頭は高校枠)と前回の北海道大会の半分。9月26日開催の県予選には長恒牧場から4頭が挑む。期待をかけるのはロンゲスト チーフ T バーバラ(3歳)。後乳房の高さや幅、前乳房の付着に優れた経産牛だ。県畜産共進会(23年)ではJCを獲得。分娩時期を初産の3月から6月にずらし、万全のコンディションで予選へ臨む。

 前回の全共では第1部(未経産/12カ月以上14カ月未満)で優等賞6席に輝いたこともあり、泰裕さんは今回「経産牛で全国に挑みたい」と力を込める。予選を突破し、全共で好成績を収めるには「秘策はない。日々の積み重ねでベストを出すしかない」と話す。岡山チームは、北海道への輸送は前回と同じ経験豊富なドライバーに依頼し、餌の準備も含めて周到な計画を立てている。10年ぶりの大舞台に向け、泰裕さんは静かに闘志を燃やす。

 乳房と尻の改良を軸に牛群を磨き、普段の飼養管理を積み上げてきた長恒牧場。環境変化や経営課題に直面しながらも「積み重ね」を信じて歩む姿は、改良の本質を示している。ロンゲストの名を背に、泰裕さんの挑戦は続く。

 【斉藤宏之】


◇牧場概要

飼養数:190頭(うち搾乳牛100、つなぎ飼い)

飼料作付面積:40ha(全て牧草)

出荷乳量:1,300t/年

個体乳量:1万1,500kg

乳質:乳脂率4.0%、乳タンパク質率3.41%、無脂固形分率8.91%、体細胞数9万個/mL

スタッフ:家族4人、正社員1人


初出:月刊『デーリィマン』2025年10月号

初出企画:Show Cow Breeders Profile

原題:定時作業、牧草品質確保、乳房と尻の改良など積み重ね大舞台目指す

   「比べる勇気」持ちリングで足りないものを知る

※本記事は掲載時点の内容です。

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