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《北のめん羊ワンダーランド 5》羊毛も堆肥も草地も生かす 羊が持つ多面的な価値

  • 7月10日
  • 読了時間: 5分

羊毛、堆肥、草地管理に見る羊の価値

肉だけではないめん羊経営の可能性


 前回までは、新規就農やと畜場、獣医療など、羊飼いを取り巻く厳しい現実を見てきた。

 一方で、羊には肉だけではない価値もある。羊毛、堆肥、草地管理、放牧によるコスト低減――。第5回は、めん羊が持つ多面的な価値と、それを経営にどう生かすかを聞いた。

(聞き手・構成=星野晃一/全7回の5回目/2026年4月2日取材)


 ゲスト 北海道めん羊協議会会長・武藤浩史さん

     同顧問・河野博英さん


小規模経営と羊毛利用


 ――小規模でも、羊飼いとして経営を成り立たせる道はあるのでしょうか。


 河野 例えば山形では6次産業化に80年ぐらい前からずっと取り組んでいて、羊を飼いながら羊肉を提供する店が数は少ないですがあります。その中の1戸は繁殖メス30頭ぐらいの規模で、一家族が生活できています。そこは豚並みに120~130kgまで肥育したマトンを提供していて、ラムは絶対出さない。品種は、今はサフォークですが昔はコリデールでした。また、羊毛も頭数が少ないからそれだけ手を掛けられるからなのか、ちゃんと綿にして布団屋に売っています。


 ――羊毛はみなさん、どういうところに卸しているんですか。


 武藤 その時代によって、毛を使いたい業者が現れたり、やめたりの繰り返しです。毛も基本的には牧場にとって採算が合わないんです。それを集めて商品にする方も採算が合わない。輸入羊毛との買い取り価格差は肉以上なんですよ。今でこそ羊肉は、輸入の価格上昇率が牛や豚より高くなっていて、国産の価格に追いつき始めていますが、羊毛の場合は物によっては10倍ぐらいの価格差がある。だから、高くても国産原料だから買いたいと消費者に思ってもらえないと産業として成り立ちません。廃棄してる人が多いんじゃないですかね。


 河野 今、「ジャパンウールプロジェクト」というのがあって、国産の羊毛を集めて、それを昔紡績が盛んだった愛知県一宮市で加工して、ツイードのスーツをつくったりする取り組みをやっているんですが、そこで使える毛はきちんとゴミを除去しなくてはいけません。


 武藤 ゴミの混入が多いと出荷先に迷惑をかけるので、毛刈りした後に牧場で選別します。うちの牧場で出荷できるのは4割くらいで、6割は廃棄しています。毛刈りや選別の作業にもアルバイト代を払うので、採算は全然合いません。毛刈りだけでも1頭1,000~1,500円の経費がかかります。毛を売れば多少なりとも売り上げになるので、やらないよりマシ、というレベルです。


羊毛を堆肥として生かす


 ――廃棄する毛はどのように処分するのですか。


 武藤 羊の毛はタンパク質の塊。焼却できないので糞と一緒に堆肥化します。積み方や切り返し方にもよりますが、1年でかなり、2年たてば完全に分解します。乳牛の糞のように水分が多くないので質の良い堆肥になります。肥料と土壌改良の両方に使えます。


 河野 相当前ですけど、愛知の畜産試験場で羊毛堆肥の試験をやっていて、土壌線虫の防除効果が報告されています。


 ――うまくアピールすれば売れるかもしれませんね。


 武藤 園芸用に加工して売ることはできるかもしれない。馬糞堆肥や鶏糞が喜ばれていますが、羊の堆肥はそれに匹敵、またはそれ以上の価値はあると思います。ただ、うちの場合だと自分の放牧地にまくだけで十分。そのおかげで約40年間、肥料代はゼロです。その間、耕起を1回もしていませんが、草地の状態はどんどん良くなっています。

 実は羊の価値は、そこにもあるんです。直接お金にならないところでお金を生んでいます。NZのように羊を完全放牧で飼えばもっとコストダウンできる可能性はあります。


羊が良い草地をつくる


 ――武藤さんの牧場では1ha当たり何頭を目安にしていますか。


 武藤 平均すると1牧区0.5haくらいで13牧区に分けて輪換放牧しています。実は、牛より羊の方が良い草地をつくれると思いますよ。羊は短く食うんです。雑草も、アカザでもダイオウでもギシギシですら、短いうちならみんな食べてしまう。


 河野 食わないのはアザミやイラクサ、コンフリーなどトゲや毛が生えているような草ですね。


 武藤 とにかく短いうちは全部餌なので、芝刈りしたみたいにきれいに食べてくれる。栄養価が高い10~15cmぐらいがちょうど良く、20cm以上になると食い残します。そうして輪換放牧を繰り返すと、不食過繁地がほとんど出ず、マメ科の牧草が残るんです。マメ科が残るということは、窒素肥料を固定するので、肥料代を稼いでくれることになります。

 短草の栄養価値は濃厚飼料を食わせているのと同じなんです。しかも、食い終わった草地は、雑草より牧草の方が先に伸びるので、雑草は自然と絶えていきます。除草剤なしで雑草の管理ができるんです。NZでは、マメ科率が草地の良しあしの判定基準になっているくらいです。

 放牧なので羊が勝手に糞をまいてくれて、土壌の団粒構造、微生物相がしっかりつくられるので、草地は悪くなりようがないんです。

 肉だけでなく、羊毛、堆肥、草地管理にも価値を生み出す羊。一方で、放牧のメリットを生かすには、疾病や寄生虫への対応も欠かせない。次回は、悪性カタル熱や腰麻痺、消化管内寄生虫、薬剤耐性など、羊を飼い続ける上で避けて通れない管理の課題を掘り下げる。


次回はこちら

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