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《もっと知りたいエコフィード①》未利用資源の価値を再定義し、コストと環境の最適解を探る

  • 5 日前
  • 読了時間: 8分
パイナップル残さは繊維消化性や糖含量が高く指向性も良い(写真1)
パイナップル残さは繊維消化性や糖含量が高く指向性も良い(写真1)

 本連載では食品リサイクルと飼料化事業の最前線に立つ筆者の視点から、エコフィードを単なる「安価な代替品」としてではなく、経営を強靭(きょうじん)化し、地域循環型社会の中核を担うための「戦略的資源」として捉え直し、その活用術と課題、将来展望について詳説していく。今月は、エコフィードの定義と種類、酪農利用のメリット、そして導入に当たって直面する構造的な課題について、総論として整理する。

【有限会社環境テクシス代表取締役・高橋 慶】

 ※本記事は、月刊『デーリィマン』本誌(2026年2月号)に掲載した記事を、デーリィマンプラス向けに一部体裁を整えて掲載するものです。


飼料危機の中、ニーズ高まる


 昨今の酪農情勢を振り返ると、われわれはかつてない「飼料危機」のただ中にあると言わざるを得ない。世界的な穀物需要の増加、気候変動による不作、地政学的なリスク、そして長期化する円安基調。これらが複合的に作用し、輸入乾牧草や配合飼料の価格は高止まりを続けている。配合飼料価格安定制度も限界が見えており、基礎となる飼料コストの上昇は酪農経営の損益分岐点を大きく押し上げ、現場の努力だけではカバーし切れない領域に達しつつある。

 これまでの日本酪農は安価な輸入飼料を前提とした生産システムを構築してきた。しかし、外部環境が激変した今、われわれは足元にある資源に目を向け直す必要がある。自給飼料生産の拡充とともに、国内で発生する食品製造副産物や余剰食品を活用した飼料、「エコフィード(Ecofeed)」へのニーズが高まっている(図)。


原料により栄養価や形状はさまざま


 エコフィードとは、「環境(Ecological)」や「節約(Economical)」を意味するエコ(Eco)と、「飼料」を意味するフィード(Feed)を組み合わせた造語である。食品製造工程から発生する副産物や、流通・消費段階で発生する余剰食品などを飼料として有効利用する取り組みを指す。

 一口にエコフィードといっても、その原料は多岐にわたり、栄養価や形状も千差万別である。酪農現場で主に利用されるものは、大きく以下のカテゴリーに分類できる。


タンパク質源として有用な酒粕(写真2)
タンパク質源として有用な酒粕(写真2)

●食品製造副産物(高水分系)

 飲料工場や醸造所、豆腐工場などから排出される水分を多く含む副産物。

 ビール粕、ウイスキー粕:嗜好(しこう)性が良く、タンパク質や繊維を含む。

 豆腐粕(おから):植物性タンパク質と繊維が豊富だが、腐敗が速いのが特徴。

 ジュース搾汁残さ:かんきつ類やリンゴなどの皮や繊維。糖分を含みエネルギー源になる(写真1)。

 しょうゆ粕・みりん粕・酒粕:タンパク質原料として非常に有用(写真2)。


●食品製造副産物(ドライ系)

 製粉・製菓・精米などの工程から発生する、水分の低い副産物。

 ふすま(小麦)・米ぬか:伝統的に利用されてきた副産物であり、繊維やリン酸源として重要である。

 菓子くず(パンくず、ビスケット、チョコレートなど):高エネルギー・高でん粉・高脂肪で、トウモロコシなどの穀物代替として非常に優秀である。加熱工程を経ているため、消化性が良いのも特徴だ。パンや菓子類は動物性タンパク質を含むものもあり、動物性タンパク質を含むものは牛用として利用できない。


●余剰食品・調理残さ

 コンビニエンスストアやスーパーの弁当・総菜工場、カット野菜工場などから発生するものである。

 カット野菜くず:キャベツの外葉やレタスの芯など。ビタミンや繊維源となるが、水分が極めて高いのが特徴。

 製品ロス(パン、麺類、弁当など):賞味期限切れや製造ミスによるもの。これらは多様な食材が混材し動物性タンパク質が混入する可能性が高く、基本的に養豚用向けであり牛用には使用できない。

 それぞれのエコフィードの詳細に関しては次回以降、解説をしていく。


牛乳・乳製品の付加価値向上、地域社会との共生にも


経営コスト低減

 最大のメリットはやはりコストである。輸入穀物相場に左右されにくい国内資源を活用することで、飼料費を抑制できる。でん粉源やタンパク源となる副産物を適切に組み込めば、濃厚飼料の使用量を低減でき、繊維源が多い原料を利用すれば粗飼料給与量の削減が可能である。


成績向上

 エコフィードは可消化率が高く嗜好性が高いものが多くある。そのような原料を適切に組み合わせることで、乳量の増加、繁殖成績の向上などの効果が得られる場合も多い。しかし、そのためには原料組成の把握、配合設計の最適化を行っていくことが重要になる。


地域循環ブランドの構築

 「地元のビール工場の副産物で育った牛」「地元の豆腐屋のおからを食べた牛」というストーリーは、消費者に対して強力な訴求力を持つ。SDGs(国連が定めた開発目標)への関心が高まる中、環境負荷低減に取り組む姿勢は牛乳・乳製品の付加価値向上、ひいては地域社会との共生につながる。


成分変動や物流コスト、不安定な需給など課題は少なくない


 ここまでメリットを強調してきたが、現場での導入には乗り越えなければならない高いハードルが存在する。エコフィードは「安いから使う」という単純なものではなく、その特性を理解し、リスクを管理する高度なマネジメントが要求される。


成分変動と栄養管理の難しさ

 規格化された配合飼料と異なり、エコフィードは「生の資源」である。日々の製造ロット、季節、工場の稼働状況によって、水分量や栄養成分(CP〈粗タンパク質〉、TDN〈可消化養分総量〉など)が変動する。例えば、おからはよく使用される原料だが、工場や生産工程によって水分含量、成分が異なる。

 これらを不適切に給与すれば、乳量や乳成分の低下、繁殖成績の悪化を招きかねない。導入に当たっては適切な成分分析と、それに基づいた設計変更ができる体制、あるいは変動を吸収できる基礎的な飼養管理技術が不可欠である。


「水と空気」を運ぶ物流コストの問題

 エコフィード普及の最大の足かせといえるのが物流である。食品工場は多くが大都市近郊や工業地帯に立地しているが、利用する酪農場は地方に点在している。この「発生地」と「利用地」の距離(ミスマッチ)が構造的な問題を生む。

 ここで直面するのが「運賃比率の高さ」である。エコフィード原料そのものの価格は輸入飼料に比べて安価な場合が多い。場合によっては無償のケースさえある。しかし、どれほど原料が安くても、それを運ぶトラックの燃料費、ドライバーの人件費、高速道路料金は通常の一般貨物と同様にかかる。

 例えば、水分80%のおからを運ぶことを想定してほしい。10tの荷物のうち、8tは「水」である。また、パンくずや菓子くずのようにかさばるものは、重量当たりの積載効率が悪く、実質的に「空気」を運んでいるような状態になる。

 この結果、牧場に届く価格(庭先価格)のうち、原料代はわずか数割で、残りの大半が運賃というケースが珍しくない。「モノは安いが、運ぶと高い」。この運賃コストが輸入飼料との価格差を縮めてしまい、遠隔地への流通を阻む要因となっている。いかに近場のものを調達するか、物流効率を上げるかが、経済合理性を確保する鍵となる。


原料調達の不安定さ

 食品工場は人間の消費に合わせて稼働する。飲料残さは夏場にピークを迎え、冬場に減少する。カットフルーツ残さはフルーツの状態によって大きく歩留まりが変わり、発生量の変動が大きい。

 一方、乳牛の飼料供給に休みはなく、一定の栄養を摂取し続ける必要がある。「欲しい時にない」「要らない時に大量に来る」という需給のギャップ(定時定量の不一致)は、酪農家にとって大きなストレスになる。これを解消するには、柔軟な飼料設計の変更、飼料の保存性向上、一時保管機能を持つストックヤードの確保や、複数の原料を組み合わせて供給を平準化するコーディネーター(飼料化事業者)の存在が重要である。


保管と品質管理=変質との闘い

 水分の多いエコフィードは非常に変質が速い。特に夏場は数時間から半日で発酵・腐敗が進むものもある。腐敗した飼料の給与は乳量低下どころか牛の生命に関わる事故につながる。

 これを防ぐには密閉して乳酸発酵させるサイレージ化技術や、有機酸などの添加あるいは迅速な消費が必要だ。食品工場でサイレージ化しているケースも多くあるが、食品工場での協力体制が鍵となる。

 昨今のエネルギー価格高騰により、水分を飛ばして保存性を高める「乾燥処理」のコストが跳ね上がっている。乾燥エコフィードは使い勝手が良い半面、価格メリットが出しにくくなっている現状も理解しておく必要がある。


単なるコストダウンではなく戦略的資源に


 エコフィードは決して「魔法の杖」ではない。その利用には、成分変動への対応、物流コストの壁、品質管理の手間といった輸入飼料にはない「汗をかく部分」が必ず伴う。

 しかし、それらの課題を飼料化事業者との連携や、農場での適切な設備投資、そして何よりプロフェッショナルとしての飼養管理技術で乗り越えたとき、エコフィードはこれ以上ない強力な武器となる。それは単なるコストダウン手段を超え、輸入リスクからの軽減、そして地域社会から応援される持続可能な酪農経営へのパスポートとなるはずである。

 次回以降は、これらの課題に対する具体的な解決策として、サイレージ調整の技術的ポイント、食品工場との連携モデル、実際に成果を上げている農場の給与事例、そして最新の飼料化技術について、より実践的な内容を深掘りしていく。


【筆者プロフィール】

高橋 慶(たかはし・けい)

有限会社環境テクシス代表取締役。1973年生まれ、愛知県出身。1996年名古屋大学農学部農学科卒業。水処理会社での研究開発部門を経て2005年から現職。エコフィードの製造、流通など幅広い事業を展開している。


初出:月刊『デーリィマン』2026年2月号

初出企画:もっと知りたいエコフィード①

原題:でん粉やタンパク質含む原料は濃厚飼料、繊維多い原料は粗飼料削減が可能/未利用資源の価値再定義しコストと環境の最適解探る

※本記事は掲載時点の内容です。

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