イネWCS主軸の給与メニューで乳量・乳質向上し繁殖も改善 広島県三原市・久井高原牧場
- 7月31日
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牧場の前経営主だった和久さん(59)の叔父・新舎進さんの死去に伴う牧場売却提案を受け、2009年に妻・信子さん(65)が代表となり第三者経営継承を果たした久井高原牧場。同牧場では耕畜連携によってイネホールクロップサイレージ(WCS)を確保し、これを最大限活用したことで、餌代削減、個体乳量・乳質向上、繁殖成績改善などを実現した。和久さんは「労働力や自給飼料生産のための土地利用が制限される条件で、安定経営を続けるにはイネWCSの利用は必須」と強調する。現在は2019年にUターン就農した長女・里穂さん(34)と家族3人で牧場を切り盛りしている。
※本記事は、月刊『デーリィマン』本誌(2026年7月号)に掲載した記事を、デーリィマンプラス向けに一部体裁を整えて掲載するものです。

市役所、県畜産協会、酪農協など関係者が“継承”を支援
叔父・進さんと父・博男さん(故人)が1978年に始めた広進牧場で役員として働いていた和久さん。進さんの急逝を受け、三原市役所、一般社団法人広島県畜産協会、広島県酪農業協同組合(広酪)など多方面から協力を得て、牧場売却の検討が始まってから約1年と短期間で第三者継承を果たした。2009年5月に久井高原牧場として営農を開始、経営立て直しに向けた助言を基に同牧場で取り組んだのが、イネWCS主軸の飼料給与体系への変更だった。
現在は飼養頭数77頭(うち経産牛53)、飼養形態はつなぎ飼い、飼料畑面積約6ha(イタリアンライグラス)で、年間約528tの生乳を出荷。飼料メニューは、1頭当たり広酪TMR11.11kg(「たちすずか」のイネWCS20%)、イネWCS6.7kg、「いねモロコシ」(イネWCS70%、スーダングラス30%)5kg、「Nラクト(乳酸菌主体混合飼料)」2.22kg、ビール粕2.22kg、スーダングラス1.73kgなどを給与している。2024年春以降のコメ価格高騰以降、耕種農家から直接入手できるイネWCSが減ったため、広酪からTMRといねモロコシの供給を受けて給与量を確保。飼料設計は全酪連が行っている。

耕畜双方のメリット多い「たちすずか」
「たちすずか」の主な特徴は「高糖分」「茎葉が高収量」「耐倒伏性に優れる」など。糖分含有量が極めて高いことで、発酵品質や牛の嗜好(しこう)性が良好な上、多茎葉でもみが少ないため消化性が高い。収穫期間が長く、耕種農家にとっても利点が多い品種だ。
県内では早くから農地の集約化が進んでいて、耕畜連携によるWCS用イネの生産が盛んに行われていた。酪農家や肉牛牧場で製造される堆肥を耕種農家(集落営農法人)に還元し、WCS用イネを栽培。調製したWCSは県立総合技術研究所畜産技術センターの指導を受けながら牧場で給餌して、嗜好性や乳質などへの影響を分析。解析結果を耕種農家にフィードバックしてWCS用イネの品質改良を重ねてきた。この取り組みによって、酪農家への高品質なイネWCS供給だけでなく、耕種農家の収益確保につなげるなど大きな利益循環を形成している。
前身牧場では、配合飼料、WCS用イネ「くさのほし」のWCS、ビール粕などを給与していた。「当時のWCS用イネはもみが多く、発酵品質もあまり良くなかった。腹をこわす牛が多く、食い付きも悪かった。『たちすずか』が登場してからは、栄養価も上がり食い込みが改善された」と和久さん。牧場は標高約560mにあるため、これ以上の飼料畑の拡大が難しく、前の牧場でもイネWCSの給与実証に協力していたこともあり、イネWCSを主軸とすることに抵抗はなかった。

9,000kgだった個体乳量が半年で1万0,500kgに増加
畜産技術センターの指導の下、2012年に同牧場で「たちすずか」の給与実証を開始。すると食い込みが良く、経産牛の平均体重が約20kg増加した。加えて9,000kgを切ることもあった個体乳量が、給与開始から半年後に、約1万0,500kgにまで改善した。牛群の健康状態も向上したことで乳質が改善。イネWCSを利用したことで浮いた餌代を乳房炎ワクチンや繁殖検診などに充て、繁殖成績にも好影響があった。
2012年と2013年の年間平均乳質成績を見ると、2012年には乳脂率4.00%、タンパク質率3.37%、無脂乳固形分率8.82%、体細胞数29万5,000個/mLだったが、2013年には乳脂率4.06%、タンパク質率3.38%、無脂乳固形分率8.82%、体細胞数27万2,000個/mLへと改善。平均分娩間隔は479日から438日になった。
直近(2025年)の成績も乳脂率4.21%、タンパク質率3.52%、無脂乳固形分率8.98%、体細胞数12万個/mL、個体乳量約1万1,000kg、分娩間隔420日と高水準を保つ。「栄養がしっかり取れて牛の健康状態が良くなり、繁殖や分娩にも効果が出たのだと思う」と信子さんは実感する。

手間かけた分、乳質や繁殖良くなることを実感
2019年、京都の病院で勤務していた長女の里穂さんが仕事を辞め家業に入った。現在は搾乳など牛舎内作業を全員で行いながら、飼料関連を含む全般を和久さん、哺育、経理などを信子さんが担っている。里穂さんは信子さんのサポートを受けながら育成牛の管理をメインに担当する。
牧場として特に大事にしているのがデータに基づく飼養管理だ。2013年にパソコンへのデータ送信機能が付いたミルカーを導入。搾乳量や繁殖成績など健康関連データを一元管理しており、作業前に必ず実施するミーティングでは「見える化」されたデータをチェックして3人で牛の状態を1頭ずつ確認する。
里穂さんは「酪農は思った通り“しんどい”けど、牛たちがかわいいし、やってみたら案外なじんでいた」と笑顔を見せる。和久さん、信子さんからアドバイスを受けながら、積極的に仕事を覚え、できる仕事を徐々に増やしている。
「限られた命だからこそ牛たちには快適な環境で幸せに過ごしてほしい。手をかけた分だけ、牛たちは返してくれる。人間の顔を覚えてなついてくれるし、餌も手間ひまかけた分だけ、乳質や繁殖が良くなる。酪農の仕事はやりがいが大きいことを知ってもらいたい」と酪農の世界に飛び込んで得たものを語る。
耕種農家とのつながりや組合の支えあるからこそ
「どの牧場も高齢化が進んでいて、いろいろ難しいことが多い。耕畜連携も牧場も今後どうなるかは分からないが、イネWCSを基盤にできる限りの対策はしていく」と和久さん。当初は3法人から「たちすずか」の供給を受けていたが、2024年の「令和のコメ騒動」をきっかけに、現在は1法人からの供給となり供給量が半減している。それでも依然として高い乳量や乳質を維持し続けるのは、「組合(広酪)の協力でイネWCSを確保できたことが大きい」と和久さん。
繁殖についてはゲノム検査結果に基づき搾乳後継牛を選び、雌雄選別済み精液および受精卵移植を活用して、改良のスピードを速めるなど、効率を高めてきたほか、人工授精師の資格を取得し、自家授精によってコストも下げている。
さらに夏場は和牛ET移植を積極的に行うことで副産物収入を確保している。先行き不透明な情勢の中、あらゆる手段を講じて経営の安定化に努めていく。
今後について当面は現状維持が目標と話す和久さん。「見学に来た消費者から牛乳をおいしいと聞いた時の喜びや達成感は牛飼いでないと味わえない。生き物だから管理のやり方も毎日同じようにはいかないけど、その分、成果になって返ってきたときの喜びも毎回違うからやりがいがある。現状規模を維持しながら、経営の質をもっと高めていきたい。これまでたくさんの人の力を借りながら牧場を良くしてきた。耕種農家とのつながりがあるからこその今だと思う、この関係性を大切にしていきたい」と展望しつつ耕畜連携の意義をかみしめる。
◇
地域循環型の高品質なイネWCS生産を通した、酪農経営の安定化。Uターン就農した後継者が酪農のやりがいを実感する久井高原牧場の歩みは、他の経営にとってモデルケースになりそうだ。
【文・写真 伊藤まい】

【牧場概要】
飼養頭数:77頭(うち経産牛53)
飼養形態:つなぎ飼い
飼料畑面積:約6ha(全て牧草)
出荷乳量:約528t/年
初出:月刊『デーリィマン』2026年7月号
初出企画:GOOD FARMIN’
原題:イネWCS主軸の給与メニューで乳量・乳質向上し繁殖も改善/ET活用し高能力後継牛確保、和牛生産にも力
※本記事は掲載時点の内容です。
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