乳汁のホルモン濃度を基に繁殖改善、搾乳ロボット1基で日量2,500kg 北海道占冠村・Bell Ranch
- 7月27日
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2025年2月に株式会社Bell Ranchを設立して同年4月に代表取締役に就き、父・雅士さん(62)から経営を引き継いだ鈴木貴大さん(34)。2023年にロボット牛舎を新築し、デラバル株式会社の搾乳ロボットVMS™V300を活用して、人が極力介入しないやり方で1基1日当たり2,500kgの生乳生産を実現しながら、繁殖改善も進めている。
※本記事は、月刊『デーリィマン』本誌(2025年11月号)に掲載した記事を、デーリィマンプラス向けに一部体裁を整えて掲載するものです。

ハードナビゲーターとエコー併用し、より良い発情見極める
搾乳ロボットの導入にはメーカーの営業範囲がネックとなる。設置後の保守業務の都合から、上川管内占冠村はデラバル社の営業範囲に含まれていなかったが、鈴木さんから打診して対応が検討され、帯広営業所から車で1時間半ということもあって導入が決まった。
デラバル社のロボットVMS™V300を選んだのは、生乳分析装置「ハードナビゲーター HN100」の存在があったからだ。オプション扱いになるハードナビゲーターは、個体ごとの乳汁中のプロジェステロン(P4)濃度を定期的に測定・分析し、この情報を発情周期および妊娠の診断に用いることができる。
ハードナビゲーターの情報に加え、株式会社HIRO DAIRY PROFITの授精師・廣田光則さんの力を借りて、適期授精ができるようになるなど、繁殖管理の好循環を実現している。以前は平均授精回数が2.4回、受胎率は30%だったが、現在の授精回数は1.9回、受胎率は50%と良好な水準を保っている。
廣田さんは「発情検出に関してはデラバルを含む各社ともに牛の行動量の変化で発情を検知するが、デラバルはハードナビゲーターを用いることでP4濃度の経時的な変化を確認できる。これによりエコー(超音波画像診断装置)で卵巣の状態と発情周期を推し量る際の精度が向上している。より信頼の高い状態でAI(人工授精)に臨むことができ、高成績の高価な雌雄選別済み精液の使用を勧めることができる」と利点を指摘する。ハードナビゲーターによって、VWP(任意待期期間)の設定やフレッシュチェック、PAGs(妊娠関連糖タンパク質)検査をすることはなくなった。
牧場は現在、総飼養数250頭(経産牛120、未経産牛130)、飼料畑面積120ha(牧草80、トウモロコシ40)で、年間1,200t(個体乳量は1万2,000kg)の生乳を出荷。乳質は乳脂率4.2%、タンパク質率3.5%、無脂固形分率9.0%、体細胞数8万個/mLで推移している。
後継牛には選別精液を8割使い、種雄牛は主にキャプテンを選定。一巡したところでダースベイダー、ポパイ、リーソン、シープスターを使っている。ロボット搾乳の適性から外れたつなぎ牛舎の牛には、良い発情が来たら選別精液を、微弱な場合は和牛受精卵移植か和牛精液授精を使い分けている。

牛が自発的に動くことが牛の健康につながる
4人きょうだいの長男である鈴木さん。とわの森三愛高校(江別市)を2年半で退学。通信制高校を卒業して酪農学園大学短期大学部に入るも、中退して20歳の時に実家に戻った経緯がある。「最終的には家業があると、若い頃は“やんちゃ”をしていた。周りの先輩からは仕事に就いてから成果を挙げられるかが重要と諭され、そこからは仕事に専念した。就農した時は両親と3人で作業していたが、次第に、ほとんどの作業を自分が担うように」と振り返る。
100頭規模のつなぎ牛舎の償還が終わったタイミングでもあり、2023年2月に62床のロボット牛舎を新築。畜産クラスター事業は活用せず、畜産ICT事業(対象:搾乳ロボット、補助率50%)のみを活用し、農協からの融資で総事業費1億2,000万円を賄った。現在の作業分担は、鈴木さんが作業全般、妹・愛さん(25)が哺乳やつなぎ牛舎の除糞、雅士さんがロボット牛舎の飼料調製、妻・愛子さん(36)は役場で会計年度職員を兼任しながら牧場の事務を担う。
経営の根幹に「至極健康に牛を飼う」という考えを据える。「牛が自発的にロボに行く、飼槽に行く、水飲み場に行く、といった普通のことが行われる環境を築く。疾病の兆候で餌を食べなくなったり、移動をためらうようになるなど、思うように牛が動かなければ人の機嫌が悪くなり、それを察知した牛も心理的に不安定になる、という負の連鎖に陥る。そういう仕事を増やしたくない」と話し、省力化のメリットを最大限享受する。
導入時は1頭7分の搾乳時間を想定して、まずは15頭をロボット牛舎に移し、5日間ほどデラバル社員の応援を受けロボに慣れさせた。「当初は牛を押してロボに入れるのが楽しかったが、1週間たったあたりから“牛の流れは牛がつくる”ように、群の中のリーダーが先に入るだけで移動のルーティンがつくられていった」と、これまで人の関与が多過ぎたことを指摘。人が牛舎にいなくなることで、牛がおとなしくなるという効果もあった。

ロボ牛舎は1日1時間、つなぎ牛舎は朝夕1時間程度の作業
1日の流れは、事務所で雅士さんとコーヒーを飲みながら、その日の作業を打ち合わせするところから始まる。ロボット牛舎関連の仕事は1日1時間程度。それに、つなぎ牛舎の搾乳(55頭)が朝夕それぞれ1時間程度だ。現在、ロボット搾乳62頭の1日当たり平均搾乳回数は3回、搾乳時間は1頭当たり6分台後半。1基当たりの搾乳頭数ではなく、1基で1日どれくらい搾るかを指標にしている。
当初、デラバルからは1日2,000kgの生産を最低ラインに提示されたが、2025年に入り2,500kgを達成。「現在のロボットなら1基で65~70頭をカバーできるだろうし、人が関与すれば2,500~2,700kgくらいはいくと考える。だけど人が極力関わらず2,500kgを生産するという考えはこれまでなかった」
日個体乳量が40kg以上の高泌乳牛が多くいるだけでは、2,500kgの生産の実現は難しい。搾乳スピードが関わるだけでなく、適切な乳頭の配置や長さが重要になってくる。ロボットに張り付く人員の人件費を時給換算すると、いかに人が介入しないことが重要であるかが分かる。鈴木さんはロボットの寿命を10年程度として、1基で元が取れるかを念頭に置いている。今後は1日3,000kgの生産を目標に掲げる。

ミルクタクシーや大型トラクタの購入、乾乳舎新築など積極投資
ロボットを導入する際、懸案事項になっていたのが糞尿処理だ。フリーストールではバーンスクレーパが一般的だが、スラリーにしたくないという思いがあり、初期投資を抑える意味もあってタイヤショベルで搬出できるよう設計した。すでに千歳市の牧場で同様のレイアウトで稼働しており、図面を借りて参考にした。除糞は1日2回で、敷料は麦稈、もみ殻、オガ粉などを複合的に使用し、飼槽側の通路には長物の麦稈を敷き詰めて汚れを飛びにくくしながら水分量を調整している。
つなぎ飼いから放し飼いへの転換については、蹄病や股裂きなど大きなトラブルもなく済んでいる。「削蹄は成瀬削蹄所に年に数回来てもらっているが、1頭ごとに切った直後の姿ではなく、なじんだ後をイメージして整えてくれる」
現在、個体乳量は1万2,000kgだが、乳量を追い求めてはいない。繁殖をうまく回し、母体数を増やすことに集中して、つなぎ牛舎が満床になったら、もう1棟ロボット牛舎を建てることを展望している。増頭に伴う乾乳舎の新築を考えており、直近では哺育牛が増えてきたこともあり、ミルクタクシーを購入した。農機への投資も積極的で、大型トラクタを2台導入し、作業時間の短縮と適期収穫を実現している。
◇
占冠村の酪農家はBell Ranchを含め2戸。今後、雅士さんが作業から離れ、雇用労働力を入れることを想定し、福利厚生や雇用環境の整備を進めている。「村に若い人材を集め、仕事を創出することも牧場の役割。過疎化が進む中、村の中に飲食店を出店したり、札幌の美容院を出前出張で呼んだり、地域の交流の場としての牧場の在り方を模索している。生産コストの高止まりが続き酪農を巡る情勢は厳しいが、収入を増やす方法を見いだし、やりがいを見つけていく」と意欲を示す。
【山口昌孝】

【牧場概要】
飼養数:250頭(経産牛120、未経産牛130〈預託含む〉)
飼養形態:放し飼い(ロボット搾乳)、つなぎ飼い
飼料畑面積:120ha(牧草80、トウモロコシ40)
出荷乳量:1,200t/年
初出:月刊『デーリィマン』2025年11月号
初出企画:GOOD FARMIN’
原題:乳汁のホルモン濃度基に繁殖管理、授精回数1.9回、受胎率50%に改善/搾乳ロボ導入で人が極力介入せず1基2,500kg/日生産
※本記事は掲載時点の内容です。
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