小さな「カイゼン」を積み重ね、働きやすい現場づくり 新潟県新発田市・小野牧場
- 7月29日
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人手不足や作業負担増加が酪農経営の課題になる中、生産現場をどのように改善していくかが問われている。新潟県新発田市の株式会社小野牧場は作業動線の見直し、牛群検定成績のオンライン共有、酪農家、ヘルパーとの情報共有検討会の開催、“スキマバイトサービス”の活用などを通じて、小規模牧場の改善を重ねてきた。3代目経営主の小野洋平さん(46)は「人が働きやすい環境をつくることが質の高い飼養管理につながる」と強調する。
※本記事は、月刊『デーリィマン』本誌(2026年4月号)に掲載した記事を、デーリィマンプラス向けに一部体裁を整えて掲載するものです。


トヨタ方式にならい作業動線見直す
牧場の現在の総飼養数は約70頭(うち搾乳牛37)、年間出荷乳量は約460tで、個体乳量約1万1,000kgを維持。搾乳後継牛は主に自家産・自家育成で確保している。飼料畑面積15.6haに、飼料用トウモロコシや牧草(イタリアンライグラス、オーチャードグラスなど)を栽培。労力は本人、妻・久栄さん(50)、父・健太郎さん(76)と、アルバイト7人で賄っており、家族経営を軸に雇用労働も取り入れながら牧場を運営している。
規模は決して大きくないが、牧場運営を改善しながら発展させてきたのが特徴だ。その背景にあるのが、小野さんが重視する「現場改善」の考え方だ。その一例として、特筆すべきなのが牛舎内の作業動線の見直しだろう。
小野さんは製造業の現場改善手法として知られる「トヨタ方式」に関心を持ち、牧場の作業の流れを整理してきた。搾乳、給餌、牛舎清掃といった日常作業の順序および作業者の動きを観察した上で見直し、無駄な移動や重複作業を減らすことで、現場の作業効率を高めている。酪農の作業は毎日繰り返される。そのため、わずかな動線の違いがトータルの所要時間や作業負担に大きく影響する。
牛舎内には見直しの跡が随所に見られる。例えば、台車を置く場所には床に赤色のスプレーで枠が描かれ、誰が使っても元の位置に戻すことが徹底されている。作業道具の置き場も分かりやすく工夫されており、カッターをつり下げる場所には「カッター」と書いたピンク色のテープが巻かれている。
照明のスイッチボックスには目印として黄色のテープを貼り「哺乳牛のスイッチ」などとどこの照明かを明記。糞かき棒(スクレーパー)を掛ける場所にもピンク色のテープが貼られ、道具の収納位置が一目で分かるようになっている。
こうした工夫の一つ一つは小さなものだが、実際に作業を進める上で大きな意味を持つ。作業者が迷わず道具を取り、使い終われば元の場所に戻すことができるので、作業の流れが止まりにくくなる。
「道具の置き場所を決めて、経験の浅いアルバイトを含め誰でもすぐ分かるようにしておくことが大事」と小野さん。整理整頓の徹底により作業の無駄を減らし、現場全体の動きをスムーズにするという考えだ。
「人が働きやすい環境をつくることが、結果として適切な飼養管理にもつながる」。人の作業がスムーズになれば牛の観察にも余裕が生まれるということだ。

「人件費を公開してくれ参考になった」との声も
小野牧場のもう一つの特徴は飼養管理を評価する指標や外部の視点を積極的に取り入れている点だ。
2005年ごろから代謝プロファイルテストを導入し、牛の健康状態を客観的に確認してきた。15年ごろからはコンサルタントによる定期検診を受けている。牛群の遠隔健康管理システム「MILooK」(ミルック、株式会社石山生産獣医科)も導入しており、牛群の状態をデータで把握する体制を整えた。
さらに北陸地方の酪農家と牛群検定のデータをオンラインで共有し、それぞれの牛群管理状況を比較・分析しながら改善のヒントを得ている。こうしたデータを基に、牧場では酪農家や関係者が集まる検討会を開いている。小野さんは参加者に牧場の経営情報や牛群データを公開した上で、改善策について率直な意見を求めてきた。
北日本酪農ヘルパー利用組合(本部・新発田市)に所属する酪農ヘルパーの伊皆(いみな)聡さん(49)も検討会参加者の一人だ。伊皆さんは検討会で、小野牧場の牛舎中央通路が他の牧場と比較して汚れていることを指摘し改善につながった経験を振り返り、「酪農家がヘルパーに意見を求めるケースはあまり多くない。経験を参考にさせてほしいと言われてうれしかった」と話す。小野さんは、ヘルパーならではの視点からの指摘を受け、すぐに除糞作業を見直した。外部の助言を取り入れることが、カイゼンのきっかけになっている。
同市で乳牛約100頭を飼養する酪農家・中野浩一さん(49)も検討会に参加したことがある。中野さんは「いろいろな酪農家の経営状況などを見る機会はなかなかない。雇用を考えていた時期だったので、人をどう集めているのか、人件費がどのくらいかかるのかといった情報を公開してくれたことがとても参考になった」と振り返る。中野さんは小野牧場の預託費の多さを指摘。小野さんはこの意見も踏まえ、預託先を変更した。

スキマバイト契機に継続雇用につなげる
人材確保の面ではスキマバイトサービス「タイミー(株式会社タイミー)」も活用。短時間のアルバイトを“入り口”に牧場を知ってもらい、継続雇用へつなげるのが狙いだ。現在の7人のアルバイトのうち2人は、タイミーをきっかけに牧場で働くようになり、その後、定期雇用につながった。
新潟県内のペット専門学校に通う米田月花(まいた・るか)さん(20)もその一人だ。当初は動物園の飼育員のアルバイトを探していたが見つからず、タイミーを利用。その際に小野牧場の募集を見つけた。「仕事しやすくて、ずっとここで働きたいと思った」と米田さん。
現在はアルバイト雇用が定着したこともあり、タイミーは利用していないが、酪農の担い手不足が深刻化する中、こうした柔軟な雇い方が新しい人材との接点になっている。
◇
作業動線の見直し、外部の視点の導入、雇用の入り口づくり――。小野牧場の取り組みは小規模牧場でも“現場”を磨き続けることで持続可能な経営を実践できることを示している。
牧場の今後について、小野さんは「大きな借り入れをして規模を拡大するよりも現場をさらに整えたい」と話す。近年思い描いていた消費者理解に向けた牛舎開放などの構想はいったん見送り、現在はまず働く人にとっての環境改善に力を注ぐ。女性でも安心して働ける更衣スペースやミーティングができる事務所を整備していく考えだ。
飼料生産については、自給飼料の割合を高めることでコスト削減を図り、経営基盤をより安定させていく考え。圃場面積には余力があり、人員を確保しながら飼料増産を目指す。
酪農経営を取り巻く環境が変化する中、現場から生まれる改善の積み重ねが牧場を磨いていく。小野牧場の歩みは「カイゼン」の力を示している。
【文・斉藤宏之/写真・宮田幸司】

牧場概要
飼養頭数:約70頭(うち搾乳牛37)
飼料畑面積:15.6ha
出荷乳量:約460t/年
個体乳量:約1万1,000kg
作業従事者:家族3人、アルバイト7人
初出:月刊『デーリィマン』2026年4月号
初出企画:グラフ夢追いかけて
原題:小さな「カイゼン」積み重ね、働きやすい現場づくり進める/乳検成績をオンラインで共有、意見交換会も開催
※本記事は掲載時点の内容です。
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