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地域とつながり、経営をつなぐ 群馬県前橋市・須藤牧場《前編》

  • 7月26日
  • 読了時間: 6分

更新日:7月27日

2001年に就農し、耕種農家などとの連携を深めてきた須藤晃さん
2001年に就農し、耕種農家などとの連携を深めてきた須藤晃さん

 須藤牧場代表の須藤晃さん(55)は「酪農を牧場の中だけで完結させない」経営を実践してきた。その例が耕畜連携の飼料生産と生乳の出口としてのチーズづくり、小中学生の見学受け入れや農福連携、地域企業から発生する副産物活用などだ。その多くは最初から計画されたものではなく、人との出会いや現場の判断を積み重ねた結果、自然と形になっていった取り組みだ。牧場が地域と「つながり」、その仕組みを次へと「つなげていく」須藤牧場の歩みをたどる。

 ※本記事は、月刊『デーリィマン』本誌(2026年1月号)に掲載した記事を前後編に分け、デーリィマンプラス向けに一部体裁を整えて掲載するものです。


飼料用トウモロコシ収穫は契約農家がコントラクターとして対応(提供・須藤牧場)
飼料用トウモロコシ収穫は契約農家がコントラクターとして対応(提供・須藤牧場)

WCS用イネ、大麦など確保し、粗飼料自給率はほぼ100%


 赤城山の麓に位置する須藤牧場は市街地や住宅地にも近い環境の中、フリーバーンで乳牛約120頭(うち搾乳牛95)を飼養。牧場敷地面積は約1haで、周辺の農地や地域資源と関わりを深めながら経営を続けてきた。年間出荷乳量は約1,200tで、乳質の安定を重視した飼養管理に力を入れている。

 育成牛に関してはこれまで北海道の牧場に預託してきたが、現在は自家育成への切り替えも視野に入れ、施設や人員など体制づくりを進めている。作業従事者は家族、正社員・パートを含めて10人。

 2001年に就農し、2003年に経営移譲を受けた須藤さん。経営主となって以降、一貫して意識してきたのが「牧場を地域の中でどう位置付けるか」という視点だ。酪農は牛舎の中だけで完結する仕事ではなく、周囲の農業や産業、地域住民との関係の中で成り立つもの。そんな考え方が、耕畜連携の飼料生産をはじめとする取り組みの出発点となった。

 現在、須藤牧場では地域の耕種農家との連携で、飼料用トウモロコシ、ホールクロップサイレージ(WCS)用イネ、大麦などを生産。これらの飼料を活用することで、粗飼料自給率はほぼ100%に達している。自牧場の糞尿から製造した堆肥を耕種経営の農地へ還元していて、地域内の資源循環を図る。

 こうした耕畜連携に加え、須藤牧場では教育機関との交流、障がいのある人の就労受け入れ、地域の食品メーカーから出る副産物の飼料利用、さらにはチーズ製造にも取り組んでいる。これらはいずれも牧場の営みと並行して行われている。

 須藤牧場の特徴は、こうした多様な連携が最初から計画的に設計されたものではない点にある。目の前の課題を解決しようと、その都度必要と感じたことに取り組んだ結果として仕組みが出来上がっていった。人との出会いを含むこうした地域との関わりが、現在の牧場経営を支えている。


須藤牧場は1971年に酪農専業化。2001年に酪農教育ファーム、2019年に農場HACCPの認証を取得した。2003年には須藤さんが経営を継承している
須藤牧場は1971年に酪農専業化。2001年に酪農教育ファーム、2019年に農場HACCPの認証を取得した。2003年には須藤さんが経営を継承している

「ウチの水田も使っていいよ」――裏作の活用から広がり見せる


 2007年に始まった耕畜連携は、牧場から車で1時間ほどの距離にある土建業関係者との出会いがきっかけで、その土建会社はコメづくりも手掛けていた。群馬県では水田でコメを作付けた後、裏作として麦類を栽培する二毛作が行われていたが、実際、裏作をしていない水田も少なくなかった。「牧場が買い取るので、その水田で飼料用大麦をつくれないか」と相談したことで“連携”が動き始めた。

 「『地域との連携』という意識よりも、まずは目の前の話に応じる形で取り組みをスタートした」と須藤さん。大麦であれば5月の大型連休明けから6月初めにかけて全量を刈り取り、WCSに調製して乳牛に利用できる。主食用水稲の作業時期と重なりにくく、耕種側にとって作業計画を立てやすいのが利点だった。

 翌2008年、新規就農の同期で、現在は農事組合法人元気ファーム20の代表を務める関根正敏さんと共に、地元でも飼料用大麦の栽培を始めた。須藤さんと関根さんが試行的に始めた取り組みを見て、「ウチの水田も使っていいよ」と声を掛けてくる農家が増え、飼料づくりは広がっていった。

 その後、国の施策としてWCS用イネ栽培が広がり、水田活用の直接支払交付金が措置される中で、水田における飼料作物生産は本格化する。


水田を“トランスフォーム(変身)”させる「群馬トランスフォームプロジェクト」の旗
水田を“トランスフォーム(変身)”させる「群馬トランスフォームプロジェクト」の旗

地域の酪農家に飼料利用促す“ハブ”役も


 須藤牧場と元気ファーム20を中心とした一連の取り組みは、後に「群馬トランスフォームプロジェクト」と名付けられ、現在は複数の耕種農家が関わる形へと発展。飼料生産を軸とした地域循環の仕組みとして定着している。

 現在、地域連携で作付ける飼料作物は飼料用トウモロコシ15ha、WCS用イネ19ha、飼料用大麦5ha、子実トウモロコシ1ha、飼料用米8ha。トウモロコシは須藤牧場が管理し、播種と刈り取りはコントラクターの機能も有する契約農家が担う。その他の作物は契約農家が播種から収穫まで一貫して行う。連携先は元気ファーム20の他、農事組合法人泉ファーム、農事組合法人富田、山田農園の4戸。地元の事情を熟知した耕種農家と共に飼料生産を分担してきた。

 須藤牧場はそれらの飼料を買い取り牛に給与するだけでなく、地域の酪農家に利用を促す“ハブ”の役目も担っている。さらに、糞尿から製造した堆肥を農地へ戻し、飼料と堆肥が地域内で循環する仕組みもつくり上げた。

 須藤牧場の粗飼料給与体系の柱になっているのが、イネと大麦のWCSで、これらを安定的に確保することに注力してきた。ただし、WCS用イネについては、現在のような専用品種が普及するまでに長い年月を要した。取り組み当初は品質が安定せず、満足のいくサイレージが得られない年もあったという。

 それでも、関係者を集めて勉強会を開き、行政や試験研究機関、民間企業とも情報を共有しながら、試行錯誤してきた。現在の飼料体系が形になるまでには、約10年に及ぶ積み重ねがあった。

 須藤牧場では、地域から出る食品製造副産物、いわゆるエコフィードの活用も進めている。株式会社ジャングルデリバリー(館林市)のオリーブオイル搾り粕、リプロテック株式会社(前橋市)の緑茶粕および豆腐粕(おから)などがその例で、地域内の廃棄物削減と飼料確保を同時に実現している。

 群馬トランスフォームプロジェクトは、飼料生産と堆肥利用を通じて、耕種と畜産を結び直す取り組みだが、その本質は「人のつながり」にある。個別の出会いから始まった取り組みが、交付金を利用しながら面的に広がり、今では地域に根付いた仕組みとして機能している。

 須藤牧場の飼料連携は、酪農経営を支える基盤であると同時に、地域の農業を次につなぐ装置にもなっている。


後編はこちら


【牧場概要】

所在地:群馬県前橋市

飼養頭数:約120頭(うち搾乳牛95頭)

飼養形態:フリーバーン

出荷乳量:約1,200t/年

作業従事者:家族、正社員・パートを含め10人


初出:月刊『デーリィマン』2026年1月号

初出企画:特集Ⅱ つながる、つなげる――酪農の未来①

原題:耕畜連携で飼料確保、生乳の出口としてのチーズづくりも/農福連携など含む“支え合う仕組み”を次世代に

※本記事は掲載時点の内容です。

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