教育・福祉・チーズづくりで次世代へつなぐ 群馬県前橋市・須藤牧場《後編》
- 7月27日
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群馬県前橋市の須藤牧場は、耕畜連携による飼料生産を軸に、地域の中で酪農を続ける仕組みを築いてきた。後編では、教育機関との交流や農福連携、飼料生産を支えるチーズづくり、次世代への継承に向けた取り組みを紹介する。
※本記事は、月刊『デーリィマン』本誌(2026年1月号)に掲載した記事を前後編に分け、デーリィマンプラス向けに一部体裁を整えて掲載するものです。

特別支援学校生徒の雇用に向け、職場環境など入念に準備
教育機関との関わりも計画的に始めたものではない。最初に見学を受け入れたのは須藤さんの長女が通っていた幼稚園で、これをきっかけに、子どもが小学校に進むと、小学校の関係者などから声がかかるようになった。
一時は対応が難しくなり、受け入れを控えた時期もあったが、スタッフを増やしてからは、牧場としての余裕も生まれた。現在は中学生の職場体験や農業高校・農業大学校の実習受け入れなど、無理のない範囲で教育機関との交流を続けている。
農福連携も“結果として広がった”ものだ。「自分がやったというより、いろいろな人からの提案やヒントが重なった」と須藤さん。きっかけは偶然の出会いだった。
企業経営者らとの会合の席で、福祉関係者と隣り合わせになり、動物が好きな特別支援学校の生徒について相談を受けた。「牧場で研修のようなことはできないか」という問いに対し、須藤さんは「ぜひ、そういう場所として使ってもらえれば」と応じた。そこから、特別支援学校の生徒を将来的に雇用することを視野に入れた取り組みが始まった。実際の雇用に至るまでには2~3年の時間を要した。
この間、農場長が中心となって作業内容の切り分けや、自転車通勤の練習といった生活面の支援をして、須藤さん夫妻は家族や学校、行政と連携しながら、牧場で働くための環境づくりを進めてきた。制度ありきで進めたのではなく、「一人の人間をどう受け入れるか」という視点を常に持っていた。
現在、須藤牧場では知的障がいのある従業員が1人働いている。須藤さんは「農福連携という言葉を意識して始めたわけではない」と言うが、その姿勢こそが、牧場における多様な人の関わりを自然なものにしてきたといえそうだ。

濃厚飼料も栽培し、輸入飼料への依存度下げる
チーズづくりの目的は、加工による事業拡大ではない。背景には、耕種農家と長年続けてきた飼料連携を、どう持続させていくかという問いがあった。
須藤さんは耕種農家の仲間と、国産飼料の生産拡大の可能性をいち早く模索してきた。田畑が空いたとき、人が食べる作物として売るよりも、家畜の餌として活用した方が収入は安定する。輸入飼料への依存度を下げられる基盤を地域に残すため、粗飼料だけでなく、子実トウモロコシや飼料用米(ソフトグレインサイレージ)といった濃厚飼料の栽培にも着手し、仲間と各地を回って技術を学び、レベルアップに励んだ。
しかし、手間とコストをかけた飼料を使い続けるには、それを支える収益構造が必要になる。「生乳を出荷しているだけでは、やってきたことの価値が伝わらない」――。須藤さんの中で、そうした思いが強くなっていった。飼料連携を続けるための“出口”として選ばれたのがチーズだった。
チーズづくりが本格化したのは2018年。今は妻・淳子さんが製造を担っていて、地元の飲食店と対話を重ねながら改良を続けてきた。次第に評価を高め、ジャパンチーズアワードでの受賞を機に、技術を磨く取り組みも加速した。
須藤牧場のチーズは、地域で生産された飼料で育った牛の生乳を、地域で食べてもらうための一つの形だ。飼料連携という消費者に見えにくい取り組みを“味”として伝える役割を担っている。
牧場敷地内にチーズの自動販売機を設置する予定もある。地域で育てた牛の乳をチーズとして地域で手に取ってもらうためで、その距離をさらに縮めようと準備を進めている。

自家育成の体制づくり任せ、若手スタッフも育てる
須藤牧場ではこれまで北海道の牧場に育成牛を預託してきたが、自家育成する体制づくりを進めている。育成牧場を整備するということは、外部に出していた育成をすべて内製化することを意味するが、須藤さんは「コスト面で大きな違いはない」と見る。
預託育成と自家育成を比較し、1頭当たりのコストを試算した結果、全体としてはほぼ同水準だった。違うのは支出の形だ。預託では一定額をまとめて支払うのに対し、自家育成の場合、飼料費や管理費などが段階的に発生する。「キャッシュが徐々に出ていくか、ドカンと出るかの違い」と須藤さん。
それでも内製化に踏み切る理由は、目先の効率ではなく、将来の選択肢を広げることにある。自家育成をすれば、ゲノム情報を活用して改良をよりスピーディーに進められるほか、和牛受精卵移植による収益アップ、育成段階からのショー出品などができ、牧場の事業の幅が広がる。自家育成は単なるコストの問題ではなく、次につながる投資という位置付けだ。
こうした検討や試算は、現場を担う若手スタッフが主体となって進めてきた。須藤牧場ではすでに、日々の作業だけでなく、経営判断に関わる部分にも若い世代が関わり始めている。
地域の耕種農家や企業と関係を築き、横の連携を重ねてきた須藤牧場。いま進めている育成の内製化は、培ってきた技術や考え方を次の担い手へ引き渡すための準備にもなっている。 牧場を地域に開き、支え合ってきた仕組みを、数年後には次の世代が中心となり運営していく――。そのプロセスを整え、支えることが、須藤さんの大切な仕事だ。
【斉藤宏之】
前編はこちら
【牧場概要】
所在地:群馬県前橋市
飼養頭数:約120頭(うち搾乳牛95頭)
飼養形態:フリーバーン
出荷乳量:約1,200t/年
作業従事者:家族、正社員・パートを含め10人
初出:月刊『デーリィマン』2026年1月号
初出企画:特集Ⅱ つながる、つなげる――酪農の未来①
原題:耕畜連携で飼料確保、生乳の出口としてのチーズづくりも/農福連携など含む“支え合う仕組み”を次世代に
※本記事は掲載時点の内容です。
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