《北のめん羊ワンダーランド 6》放牧の利点と落とし穴 疾病管理と血統登録の課題
- 7月10日
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放牧の利点と落とし穴
疾病管理、寄生虫、血統登録の課題
羊は草地をきれいに食べ、堆肥を草地に還元する。放牧には大きな可能性がある一方で、牛との混牧による疾病リスクや、消化管内寄生虫、薬剤耐性などの課題もある。第6回は、羊を飼い続ける上で避けて通れない疾病管理と、血統登録を含む飼養基盤の課題を聞いた。
(聞き手・構成=星野晃一/全7回の6回目/2026年4月2日取材)
ゲスト 北海道めん羊協議会会長・武藤浩史さん
同顧問・河野博英さん
牛との混牧に潜む疾病リスク
――羊を放牧すると草地に良い効果があるという話でした。では、牛と一緒に羊やヤギを飼えば、草地管理の面でも良い効果が得られるのでしょうか。
河野 羊やヤギとは一緒の環境下に置くな、と指導されています。羊は発症しないんだけど、羊から牛に感染して発症する悪性カタル熱などがあります。
武藤 ただ、悪性カタル熱は接触感染なので、一緒の畜舎で飼うのを避けるとか、羊の分娩介助やってから牛を触ったりしないなど防ぎようはあります。
河野 逆に、牛から羊に感染する腰麻痺もあります。カが媒介して牛の腹腔内にいる糸状虫を羊にうつしてしまう。羊は元々の宿主じゃないから、アニサキスみたいに体の中を動き回って神経がやられてしまう。特に府県ではこれが一番大きな問題です。
輪換放牧と寄生虫のリスク
武藤 先ほど草地管理の話をしましたが、これにも寄生虫の問題があります。羊は消化管内寄生虫に弱い。虫は羊が来てくれるの待っていて、羊が草に登ってきた虫を食べると下痢や栄養障害などを引き起こし、重症化すると死に至る。羊の糞の中に卵として排泄されるので、次の宿主を待つというサイクルができる。頻繁に輪換放牧することは、虫にとったら良い環境なんです。だから寄生虫コントロールをきちんとできないと、輪換放牧のメリットがデメリットになっちゃう。
――具体的には薬剤による駆虫ですか。
武藤 少し前まで、薬剤による駆虫に頼ってきましたが、近年は薬剤耐性ができてどの薬も効かない状況を生んでしまった。長く飼っている牧場ほど起きやすく、5年やそこらでは表面化しませんが、外部から導入した羊が、耐性を持った虫をおなかに持っていて、汚染を広げてしまうこともあります。だから、管理放牧は土や草に良い効果をもたらしますが、寄生虫の感染率を高めることにつながります。
――耐性ができた虫がまん延した場合の対処はどのように?
武藤 難しい技術ですが、一つは耐性を持たない虫の比率を増やすんです。当たり前ですが虫同士も繁殖しています。で、耐性持った虫と耐性持った虫が交配すると、より強力な耐性の子虫ができます。一方、耐性持ってない虫と耐性持った虫が交配すると耐性が薄められるんです。こうやってどんどん薄めていきます。
河野 昔は、定期的な全頭駆虫が推奨されていましたが、それをやったがために耐性の強い虫がどんどん広がっていった。だから、薬剤投与は症状のある羊だけにしていけば耐性が薄まります。
武藤 うちの牧場では、2歳後半~3歳になると比較的体が強くなるので、むやみに駆虫しません。
河野 一番悪さをする捻転(ねんてん)胃虫で言うと、私は羊に関わって40数年たちますが、その間に薬剤はどんどん変わっていって、今はまた以前の薬を使うようになっています。
武藤 日本には羊用の薬剤がないのも問題。現状では牛や豚、馬用を、成分を見て羊にも使えるだろうと流用しています。薬剤そのものも使い方もどんどん変わってきているので、最終的には各牧場で判断するしかありません。「他の牧場でやっているから、うちもこれ」ってばかりだとその薬の耐性をまた持ってしまいます。結局、薬が効いているかどうかは糞便の虫卵検査をするしかない。検査は自分でやるか、家畜保健衛生所にも依頼できます。
あと、以前よりマシにはなりましたが、飼養管理に使うさまざまな道具の種類が少ない。個人輸入するしかありません。まあ、商社の皆さんも不良在庫をたくさん抱えるわけにいかないし、難しいんですよ。あと医療関係の道具だと法律が絡んでくるので、一品ごとに申請・許可を取らないと。
個体識別と血統登録
――個体識別制度はどうなっていますか。
武藤 BSEが表面化した時に羊・ヤギについても試行段階までいったんですけど……。
河野 農水省からの依頼でいくつかの牧場にタグを配って、アンケート調査までやったんですけど、結局立ち消えになっちゃった。
武藤 まあ、羊は統計調査の数字ですら正確じゃないですからね。北海道の統計数字は家畜保健衛生所の資料を使っているので比較的正確ですが、全国的には農林統計から除外されているので正確には分かりませんよ。
――血統登録はどのように。
河野 東京にある畜産技術協会が登録団体になっていて、北海道は酪農畜産協会がその委託団体になっています。畜産技術協会が開催する講習を受ければ生産者自体が登録審査員になれます。登録審査は2人の審査員で行いますが、審査は2段階行われます。
まず、審査員の資格を持った生産者が個体を審査して書類をつくって、登録委託団体に提出します。委託団体の審査員はその書類を審査して畜産技術協会に提出すると、登録書と登録耳標が発行されます。
武藤 血統登録は遺伝的改良に必要ですし、買う側が評価してくれれば種畜としての販売価値も高くなります。肉になる個体を登録する必要はないけど、母羊として残す個体はきちんと登録して、血統が分かるようにしておくか、自分の群内で独自データとしてきちんとまとめておくことはやっぱり必要です。
河野 登録を持ってないと、種畜生産農場として北海道から認められず、公的機関から種畜の譲渡が受けられませんしね。家畜改良センターから育種改良素材を受ける際にも関わってきます。
ただ今問題なのは、先ほど述べたようにNZでサフォークの改良をほぼやめてしまっていて、別の品種に変わっていることです。そういう中で日本もサフォークの純粋種はどんどん減っているんです。今後どうするのかということで、国の家畜改良増殖目標でサフォーク以外の品種や交雑種を利用した改良の推進が昨年初めて盛り込まれました。それまではサフォークの増殖目標しかありませんでした。
現状の純粋種4~5種で約2万3,000頭の頭数規模では、品種登録をやっても純粋種を保つのは難しい。だから、交雑種でも血統を明らかにしておけば、交雑種の登録もできるようにする必要があります。そのため技術協会と農水省に登録制度の見直しをお願いしているところです。だって、馬は交雑でも登録できるんですから。
◇
疾病管理や血統登録は、羊を飼い続けるための基盤となる。最終回は、流通、公的支援、NZとの連携など、めん羊産業を支える仕組みと今後の可能性を考える。
次回はこちら
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