《北のめん羊ワンダーランド 26》羊の飼育・加工の経験生かし丸ごと1頭使い切る 北海道白糠町・ファームレストラン「クオーレ」

羊を余すことなく使い、地元食材とともに提供する北海道白糠町のファームレストラン「クオーレ」。フランス発祥のミシュランやゴ・エ・ミヨといった有名レストランガイドに掲載され、ジャパンタイムズの「デスティネーション・レストラン」にも選ばれている。店舗は、道路を挟んで向かいにある㈲茶路めん羊牧場の武藤浩史代表取締役がオーナー。武藤さんと二人三脚で店を育ててきたシェフの漆崎雄哉さんに話を聞いた。【文・写真=星野晃一/2026年7月取材】※「北のめん羊ワンダーランド」は毎週金曜日更新中!最新記事は公開後1週間、無料でご覧いただけます。


白糠は世界に誇れるほど食材が豊富
――出身は、店舗のある白糠町だそうですね。
漆崎 はい。地元に戻って今年で11年目になります。白糠町内の高校を卒業して札幌の調理専門学校に進み、札幌のイタリアンレストランに就職しました。そこで2年ほどたったときに、武藤さんからレストランのオーナーシェフ経由でお声がけいただきました。そのレストランでは、武藤さんの牧場から羊肉を卸していました。それから1年半ぐらい考えさせてもらって、2014年に白糠に戻ってきました。
――戻るに際して最初は悩んだりしましたか。
漆崎 そうですね。当時私は22歳で、地元に戻っていきなりシェフっていうのは、さすがに早過ぎじゃないかと。個人的には、30代前半で独立できればと思っていましたので。それで、レストランのオーナーシェフのほか、札幌でお世話になったシェフの方々に相談すると、大体、成功されている方は23、24歳ぐらいでシェフになられているということが分かりました。
それに、自分が働いていたお店は小さなイタリアンレストランだったので、いろんな仕事を飛び級でやらせてもらえたんです。働いて半年後にはもう仕込みを全部任されるようになっていて、メニューも考えていました。だから他のお店で働いている人より、経験が違うし、全然迷うことないよ、と言われて決心がつきました。
――戻ってきた当初はどんな仕事を。
漆崎 2014年4月に戻ってきたんですが、店舗予定の家屋はただの古民家だったので、壁や天井をはがすなどリノベーションしながら、丸1年牧場にも勤務しました。武藤さんには、「まずは羊のことを知ってもらいたい」という思いがありましたので。
その時に、羊の世話のほか、肉のさばき方や内臓処理といった加工も一通りやったので、触れば肉質がどんなかは大体分かるようになりました。そうして2015年9月に「クオーレ」がオープンしました。


――白糠町の店で働くことに関してはどう思っていましたか。
漆崎 もともと、将来は白糠の食材を使ったお店をやることを思い描いていました。白糠は人口が7,000人を切るような田舎町で、若い人はみんな都会に出てしまう。やはり、若い人が戻ってきて、町をどんどん活性化させないといけないと、ずっと思っていました。
それに、白糠は世界に誇れるような、全国でも類のないくらい食材がそろっている場所なんです。乳牛や羊、それに鹿の生息数も多く、魚介類の産地としても有名です。ただ、それを食べさせ、伝えるステージが少ない。
札幌で働いていたとき、修行先のオーナーシェフが白糠の食材を結構使ってくれていて、メニューに「白糠産〇〇」と書いてくれていたんですが、お客様からよく「この、『白』何とかって何ですか」と聞かれました。今でこそ「ふるさと納税」で知名度が上がりましたが、地元の人間としてすごく悔しい思いをしていて、白糠の食材を料理という形で発信していけば、もっと有名になって食材に対する付加価値が高まっていくのではないかと思っていました。武藤さんからお話いただいたときに、まさに思い描いていたことと一致したんです。
――羊の世話や加工処理をしてみて気づいたことは。
漆崎 レストランでは通常、半頭丸ごとさばいたり、血のついた状態の内臓を処理することは絶対ないので、これを経験できる意味は大きいですね。その中で、「この肉の部位はこういう調理法でやってみよう」とか、内臓にしても、肺や腎臓を使う店はなかなかないのですが、こう調理してみようとか、本当に丸ごと1頭使い切ることができています。
やっぱりそれは加工場のある羊の牧場で働かないと分からないことです。羊の世話、餌やり一つとっても、こういう物を食べさせてこれだけ手間をかけて育てていることが分かって、牧場での全ての経験が貴重だったと思っています。
形式にとらわれず、おいしく食べるために何でも
――メニューは、海外の代表的な羊料理よりもオリジナル料理の方が多いんですか。
漆崎 イタリアン出身なので、イタリアンベースのオリジナルというか。世界の現地の調理法ももちろん学びましたが、そのまま日本でやっても絶対通用しません。正直、全然おいしくないんです。その国の人に合う味付け、調理法なので。ですので、イタリアンの羊を使った料理をベースに、「だし」といった和テイストを入れたりしています。
――内臓を使う料理もイタリアンであるんですか。
漆崎 いろいろあります。イタリアは羊をとても食べる国です。世界的にも一番食べられているのが羊で、先進国では日本が一番少ないぐらいですよね。羊以外は食べられない国が多いっていうのもあるんですけど。中東が特に。だから内臓料理はいろいろあります。
ただ私は、イタリアンベースですけど、そこにこだわりは持っていません。中東やフレンチ、和食や中華の要素を入れたり、いいところは取り入れながらつくっています。言ってしまえば、羊をおいしく食べるためだったら何でもしますよ、というスタンスですね。
――今は完全予約制と聞きましたが、オープン当初は。
漆崎 最初はランチメニューなどフリーのお客様向けもありましたが、ホール担当がいなくなってワンオペになった関係で、今年の3月から1日最大8人の完全予約制にしました。それでも他のシェフからは「コースで15品も出すなら、2組4名でいいだろうに」ってよく言われます(笑)。

――コースの種類は。
漆崎 今は2種類しかありません。このうち1万2,000円のコースは、羊はもちろん出しますが、魚介などいろいろなものも出します。もう一つの1万5,000円のコースは、オープン当時からやっているオール羊コースで、羊肉やモツを使用した特別コースです。
――営業時間は。
漆崎 金曜日と土曜日は昼と夜の2部制、それ以外は昼のみの営業です。
――ワンオペなので、週末は大変そうですね。
漆崎 はい。昼の片付けをいかに早く終わらせて夜の準備に取りかかるかっていう……。仕込みもあるので、休憩をどうしようかと考える余裕もなく、そういう大変さはあります。
――お客さんは常連の方が多いんですか。
漆崎 そうですね。今年11年目ですけど、この間コロナがあったり、メニューやスタイルも変えたりして、値段も当初に比べてかなり上がりましたけど、変わらず通っていただいているお客様も結構多くて、リピート率が高いですね。遠方から宿を押さえて、わざわざここで食べるためだけに年に何回も来ていただいているお客様もいます。
――初めてのお客さんだと、どんな反応ですか。
漆崎 初めてうちの羊を食べた人は大体みんな衝撃を受けます。「今まで食べてきた羊とまるで違う」みたいに。厨房から見ていると、目をぱっと見開いて顔を合わせたりして、そんなときは頭の中でガッツポーズが出ます。
私は、子どものころから山菜取りや魚釣りが好きで、季節に応じて自分で採取した山菜や、近くの農家さんと一緒に協力してつくった野菜、店舗の周りで栽培した野菜を羊肉や魚に合わせて出しています。

――こういった形で羊料理を出すレストランは日本にありますか。
漆崎 正直、私は聞いたことがありません。ありがたいことに、去年「デスティネーション・レストラン」に選ばれまして、それを選出する方々は全世界、日本全国を巡って食べ歩きしているんです。彼らが言うには、飼育から一貫して、羊を丸ごと食べさせてくれる店は見たことがない、唯一無二だと言っておられました。
去年、私がその受賞式に参加した際、他の受賞者のシェフと交流する機会があってすごく刺激を受けました。皆へき地で店をやっている人ばっかりで、自ら食材を撃って獲ったり、釣り上げたりしている、私から見たらスターシェフばかり。皆平均2万円から4万円ぐらいのコースを出しています。
今は地方こそ食べに行くべきっていう流れなんです。都会に行ったらおいしいものは当たり前にあるけど、もともとその材料がある場所って地方だよね。じゃあ、そこでやっているレストランが絶対おいしいはず、といった消費者の流れです。
その体験もあって、不安でしたが今年の3月からコースを絞って、席数も絞って、価格を上げてやってみたら思いのほか普通に予約が入って。うちはサービス料などは頂いていませんが、コース料金とドリンクで、客単価も増えました。物価が上がってお客様の意識が変わったというのもありますが、それにプラスして、このお店にそれだけの価値を見いだしてお支払いいただけるお客様が増えたのかなと思います。
ファームレストラン「クオーレ」
営業期間:3~12月(1、2月は冬季休業)
営業時間:水・木・日曜は12時のみの受付。金・土曜日は12時と18時のみの受付。いずれもお客様がそろい次第一斉スタート
受賞歴:ミシュランガイド2017 ビブグルマン、ゴ・エ・ミヨ2021・2トック
所在地:北海道白糠郡白糠町茶路川西
連絡先:01547-2-5030
.webp)








