1日6回の餌寄せと自動給餌機で新規参入1年目から個体乳量目標クリア――北海道別海町・上田舜一郎さん一家

北海道根室管内別海町で2025年10月に新規参入を果たした上田舜一郎さん(28)・愛実(まなみ)さん(26)夫妻。営農1年目から自動給餌機やミルカーと連動する飼養管理ソフト「VMAP-3(オリオン機械㈱)」を活用した綿密な個体管理や1日6回の餌寄せにより、個体乳量32kg/日という目標をクリア。牛床の乾燥と清潔維持も徹底し乳房炎発生を抑制している。来年からの放牧開始とそれによる配合飼料給与量削減に向け、土壌研究グループ「SRU(Soil Research Union)別海」に加入し土壌調査や草地更新にも余念がない。
【文・宮田寛央/写真・鈴木中弓】


酪農は夫婦が同じ方向目指し頑張れる――「将来放牧ができる」を条件に就農地選定
神奈川県生まれの牧場代表・舜一郎さんは明治大学の農学部(生田キャンパス、神奈川県川崎市)出身で、学生時代は豚の研究を行っていた。研究室にこもるよりも豚の飼養管理作業の方が性分に合っていると感じた舜一郎さんは、漠然と将来は畜産系の仕事をしたいと考えるようになった。
新規就農を具体的に考えるきっかけとなったのが、大学の音楽サークルで知り合い交際中だった新潟県出身の愛実さんがテレビ番組を見ていた際、飼料用一輪車に子どもを乗せている姿に家族経営の良さを実感し、強い憧れを抱いたこと。「都内で開かれた『農業人フェア』などにも2人で参加し、調べていくうちにどんどん興味が高まった。飼養形式は放牧と考えていたので、北海道で新規就農という目標に行き着いた」と舜一郎さん。4年生時に経験した釧路管内浜中町や別海町での酪農実習を通じ、2人が同じ方向を向いて頑張れる酪農への思いはさらに大きくなった。
1年先輩だった舜一郎さんは卒業後、愛実さんと足並みそろえて研修するため、都内でアルバイトしながら、放牧で営農できそうな研修先を選定した。22年、釧路管内浜中町での研修が始まり、技術と知識を身に付けつつ就農地を探した。「できるだけ早く自分の牧場を持ちたかった。新規就農は巡り合わせとタイミングが大きいので、大きなこだわりは持っていなかったが、『放牧ができる』という条件だけは外せなかった」と舜一郎さん。研修牧場でつなぎとフリーストールの両方の飼養管理を経験したことで、どちらにも対応できるようになったのが放牧以外のこだわりを持たない要因となった。結婚したのは24年で、子どもは長男・陽(はる)ちゃん(1)の1人。
25年に研修先牧場の先輩スタッフから、離農後1年ほどたった別海町の牧場跡地を紹介され、そこでの就農を決意。10月からの搾乳開始に向け8月には初妊牛45頭と経産牛15頭を購入した。農地、牛舎、乳牛などの費用約1億5,000万円は青年等就農資金を利用し、コンビラップやトラクタ、搾乳関連機器・設備一式と自動給餌機などは畜産クラスター事業の補助を受けた。「青年等就農資金は2年目から償還が始まり、17年間での返済が義務付けられているので、初年度から高泌乳で病気を極力出さないことが求められる」と舜一郎さん。


出産ラッシュ乗り越え 就農から9カ月で分娩事故と廃用はゼロ
牧場は現在、総飼養数96頭(経産牛62、育成牛34)、草地60haで、年間計画出荷乳量は540t(個体乳量32kg/日)。乳質は乳脂率4.5%、タンパク質率3.5%、無脂固形分率9.2%、体細胞数6万個/mLと良好な水準だ。草地はチモシー主体で、2番草まで収穫。1番草はTMRセンターに刈り取りのみ依頼し、2番草は自分で収穫する。
飼料は1日2回の分離給与で、1日6回の餌寄せで採食量を確保。「餌寄せにはこだわりを持っていて、嗜好(しこう)性の良い糖蜜由来の飼料をトップドレスしていることも相まって残餌はほとんどない」。配合飼料はオリオン機械㈱の自動給餌機「マックスフィーダーHID」を活用し、乳量データなどを基に個体ごとに給与量を自動調整する。綿密な個体管理により、ここまで計画個体乳量32kg/日をクリアする。
搾乳時は牛が起立している間に、ケイ酸カルシウムを主体とした衛生環境改善資材「くみあい クリーンサポート(ホクレン)」を牛床に散布し乾燥させることで細菌の繁殖を防いでいる。その効果もあり、乳房炎は就農時から1頭/月以下に抑え安定した乳質を実現している。
作業は舜一郎さんが全般を担当し愛実さんは育児をメインに哺乳と牛舎内清掃を行う。愛実さんの父・阿部久さん(56)は今年3月まで新潟で中学校の教諭をしていたが、退職が近づくタイミングで愛実さんが就農したのを受け、セカンドキャリアとして4月から働き始め、搾乳を担当する。「当初のイメージよりきついが3カ月たってようやく慣れてきた。新たな経験がたくさんできるし来て良かった。働き始めた時より5kgは痩せたかな」と笑顔を見せる。
営農当初は初妊牛の分娩ラッシュがとにかく大変だった。「収益確保のため初産牛に和牛を付けたので難産が多く気の抜けない期間が続いた。気が付いたら牛舎で寝てしまっていることもあったほど」。そんな頑張りのかいもあり就農から9カ月たった現在まで、分娩事故および廃用となった牛もゼロ。「収益を伸ばす一番の方法は牛を死なせないこと。生まれた子牛にも初乳製剤を使うなど、とにかく『死なせない』を第一に考えている」と舜一郎さん。

まずは黒字収支で1年目を終えることが目標
来年からの放牧開始に向け、シバムギが自生した草地を更新し、乾乳牛をパドックで放し飼いして慣れさせるなど準備を進めている。SRU別海に加入し、放牧地や採草地の土壌改良と植生改善にも余念がない。「配合飼料の購入費が月に200万円ほど掛かっているため、利益率を上げるためにも放牧開始は必須。現在の泌乳ピークの給餌量15kg/日弱を5割減らしたい。分娩を春にまとめて泌乳と放牧草栄養価のピークを合わせ、放牧草を常に短草利用して最終的に利益率5割を達成したい」と意気込む。
綿密な個体管理や毎日の餌寄せ、牛床乾燥などを徹底し確かな手応えを得た。直近では黒字経営で1年目を終えることが目標で、牛のことを第一に考えつつ、家族の時間も増やしていきたい。「日中に子どもと遊べるのは酪農家の特権だと思う。スタートダッシュを決める今が一番大切な時期なのでどうしても家族の時間は減ってしまうが、そのうち旅行にも行きたい」と力を込める。
牧場概要
飼養頭数:96頭(うち経産牛62)
草地面積:60ha
飼養形態:つなぎ飼養
計画出荷乳量:540t/年
初出:月刊『デーリィマン』2026年8月号
初出企画:らくのう一家の生活
原題:1日6回の餌寄せや自動給餌機利用で新規参入1年目から個体乳量目標クリア/念願の放牧実施へ土壌改良、草地更新の準備進める
※本記事は掲載時点の内容です。
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