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《北のめん羊ワンダーランド 27》「サフォークのまち」の今とこれから 北海道士別市 行政・生産者に聞く

1 日前
読了時間: 11分
ブランドラムとなる羊は舎飼い(ペコラファーム)
ブランドラムとなる羊は舎飼い(ペコラファーム)

 サフォークを顔としたまちづくりに取り組んできた北海道士別市。1967年にオーストラリアから100頭を導入し、市民と行政が連携して活動を続け、来年で60年を迎える。この間、羊肉の低迷期から、供給を上回る需要がある状況へと需給環境は大きく変化した。地域ぐるみでめん羊生産に取り組む先進地の今を、士別めん羊生産組合長・㈱ペコラファーム代表取締役の山下卓巳さん、士別市経済部畜産林務課副長兼畜産係長の錦田正博さん、同畜産係主任主事の大場貴博さんに聞いた。【文・写真=星野晃一/2026年8月取材】※「北のめん羊ワンダーランド」は毎週金曜日更新中!最新記事は公開後1週間、無料でご覧いただけます。


左から錦田さん、山下さん、大場さん
左から錦田さん、山下さん、大場さん

ブランドラムは舎飼いで地場産穀物を中心に給与


 ――士別市内のめん羊飼養規模は。


 大場 2026年4月1日現在で1,397頭のサフォーク種のめん羊が飼われていて、今年生まれが692頭、昨年生まれの雌が133頭、成雌2歳以上が529頭、種雄が43頭です。大体130頭前後が繁殖用として残され、それ以外が肉用として出荷されています。


 ――飼養されているめん羊は全てサフォークですか。


 山下 テクセル、ポールドーセットがほんのわずかいて、第三セクターが運営する観光施設の「世界のめん羊館」にも、サフォークを含め11種ほどいます。


 ――飼養戸数は。


 大場 7戸です。今年も1人新しく始められた方もいらっしゃいます。


 ――飼養管理の形態は。


 山下 士別市ではブランド化の一環として、市内で生産されたサフォークのラム肉を「士別サフォークラム」という名称で販売していますが、このラム肉となる羊は放牧せず舎飼いとなります。羊肉特有の臭みを低減するためで、穀物中心の配合飼料を主として給与します。一方、親羊は飼料の軽減や体調管理にメリットがあるので放牧しています。なお、ラム肉として出荷される羊は公益社団法人畜産技術協会の出生証明書、繁殖用羊は血統登録が必要です。


 ――市全体のめん羊農家の草地面積は。


 大場 163haです。市の農地面積の1%ほどになります。


サフォーク約340頭を飼養している「羊と雲の丘」
サフォーク約340頭を飼養している「羊と雲の丘」

 ――牧草を自賄いしている農場はありますか。


 山下 三セクが運営する「羊と雲の丘(※1)」はほぼ100%自給しています。私が代表を務める「ペコラファーム(※2)」では必要量の5割ほどを購入し、5割は自給しています。

 それは、士別市では後継者を確保している農家が結構多く、離農が少ないので農地が出てこないという事情が関係しています。また、そばや大豆、てん菜などの畑作物の方が利益が高く、牧草は購入すれば機械の購入・維持コストがかからないので、農場全体で見るとこの方が収支バランスが良いという事情もあります。

 私の牧場には、採草地が25ha、放牧地が15haほどありますが、掃除刈りなど作業を含めて考えるとトラクターは最低でも3台ほしいところです。しかし、それを維持しようとしたら、羊肉の売り上げだけでは費用が捻出できません。そばなどの畑作物をしっかり栽培して収入をカバーするのが、うちの牧場にとっては経営バランスがいいと感じています。


 錦田 農地がなかなか出てこないことに関しては、士別市は札幌市と同じくらいの面積があるので、全く空きがないエリアもあれば、今後農地が出てくる見込みのエリアがあったりと差があるんです。


 大場 耕作放棄地も士別市はゼロなんです。


 ――そこは、農家の収益がきちんと上がっている地域ということなのでしょうね。


 山下 はい。北ひびき農協のエリアなのですが、売上高はしっかり上がっています。温暖化で、士別市より北部の近隣市町村ではこれまではもち米がほとんどでしたが、うるち米も可能になりました。


ブランドラムとなる羊には穀物中心に給与(ペコラファーム)
ブランドラムとなる羊には穀物中心に給与(ペコラファーム)

 ――購入飼料は牧場ごとに違うと思いますが傾向はありますか。


 山下 ブランドラム肉の基準として、士別産の小麦・大豆・ビートパルプの給与が決められていて、これらは地元の農協が飼料用として規格外の原料を取りまとめて供給してくれます。ですので、メインの購入飼料は地元産を安定して使えています。

 他の地域では、大豆はくずでも加工用に回ってしまい、飼料としては回ってこないという話も聞いていますので、そういう面ではめん羊生産者にとって非常に恵まれている地域だと思います。ビートパルプも市内の製糖工場から出てくるものを使えますが、飼料設計上のバランスを考えて配合飼料を補充している牧場もあります。

 なお、ビートパルプはこれまで、工場が乾燥して塊にして安く出してくれていたんですが、その製造が終了してしまったので、うちの牧場では十勝管内からペレット状にした物を買って使っています。


 ――肉の出荷先は。


 山下 大きく分けて2つあって、市内への供給を担当する牧場と市外を担当する牧場です。うちの牧場は特に取引先も多かったので市外を担当しています。

 この流れになったのは、ご存じの通り、国産羊肉が一般に流通されていない時代が長くありました。そうした中で、サフォークを市のブランドにするために市内の料理店にも協力してもらおうと二手に分かれて供給することになりました。

 近年は、市外はもとより市内も供給量を上回る需要になっていて、生産者としてはようやくうれしい状況になってきました。

 こうした経緯があるので、基本的には市内の供給先には「お互い様」の関係で一定の価格を決め、市がマイナス分を補助する形になっています。ただ、最近は資材の高騰などがあり、どうしても毎年価格を見直さざるを得ない状況です。


 ――出荷する際の加工はどのように。


 山下 市内に精肉屋が1軒あり、そこは自分で加工して販売しています。うちの牧場では加工場を持っているのでパーツ売りもしています。他に、他の牧場から依頼を受けて加工する場合もあります。加工場には専属社員が3人います。


 ――出荷する月齢は。


 山下 「士別サフォークラム」は、その名の通り12カ月齢未満で出荷されます。うちの牧場では、ラム以外でも6割ほどをホゲットで出しています。ホゲットが増えてきたのは、やはり肉量をしっかり取りたいからです。

 13年前に私が牧場で働き始めたころは1頭30kgもなく、売り上げが伸び悩んでいて、かといって頭数を増やしても畜舎に限界がある。であるなら1頭当たりの重量を増やすことにして、今は平均40kgを超えてきています。

 ラムで40kgに仕上げられたらベストなのですが、どうしても増体に時間がかかる羊もいるので、13~15カ月ぐらいかけて出荷しています。ただ、こうすると冬を越さなければならず、また年が明けたらすぐ出産が入るので、畜舎容積が倍必要になるんです。そこはこれからの課題です。


 ――放牧の開始時期は。


 山下 この地域では4月末~5月からスタートして10月いっぱいくらいです。それ以降は気温が低く雪も降るので牧草があまり成長しなくなります。


 ――疾病対策は。


 山下 牧場ごとに環境が違うので、それぞれで対策を講じていくしかありません。耐性菌の問題で全頭駆虫の功罪が取りざたされていますが、どうしても疾病が出やすい牧場、出やすい時期があるので、予防で全頭駆虫を実施する場合も出てきます。

 薬剤は今3種類使用していますが、去年効いたのが今年は効かないというケースはどこの牧場にも出てきていて、皆さん苦労しているところだと思います。


羊によるまちづくりを進める士別市
羊によるまちづくりを進める士別市

 地域おこし協力隊を経て市内の牧場に4人が就職


 ――新規就農の状況について教えてください。サフォークのまちとして市が関与されているので、道内では特殊だと思います。


 大場 2019年に親会社がバネ製造メーカーの企業が参入されました。個人では2025年と2026年にそれぞれ1人めん羊生産を始めて、このうち1人は地域おこし協力隊退任後、耕種との複合経営で新規就農しています。

 市では、めん羊の飼養管理などを学べる地域おこし協力隊の制度を整え、2014~2026年で18人を受け入れており、このうちめん羊牧場に4人が就職しています。地域おこし協力隊になると、隊員の希望に沿って基本的に市内の3法人で研修を行いますが、個人の牧場に行くことも可能です。

 また、現在は獣医師の資格を持っている隊員もいて、市内の動物病院の先生とともに牛飼い農家を回って反すう動物の診療を学んでいます。

 一方で、経営主として新規就農するケースについては、先ほど話があったように、なかなか農地が出てこず、残念ながら他の市町村で就農・就職された方も少なくありません。


 山下 生産者の立場で言うと、いろいろなまちから来てもらって3年間牧場で働いてもらえるだけでも、すごくいい制度だなと思います。もちろん、就農してもらえれば二重丸なんですけど、協力隊をきっかけに、他の地域であってもめん羊に関わってくれたら業界にとってすごくプラス。

 めん羊業界は歴史があっても、産業として成熟していないと個人的には思っていて、そのきっかけづくりとしては、士別市の取り組みはとても良いと思います。他の市町村に出た人も、ひょっとしたらまた戻ってきてくれるかもしれないし、いろいろな可能性がある制度だと思います。


 ――牧場への市独自の補助制度は。


 大場 主に2つありまして、生産基盤整備への補助と、めん羊振興への補助です。

 前者は、❶畜舎整備や車両取得に対し、それぞれ150万円を限度に半額補助、❷新たにめん羊の飼養を開始する際のめん羊導入経費に対し、250万円を限度に3分の2補助――する制度です。

 後者は、市内でサフォーク種めん羊を飼養する者で構成する「士別めん羊生産組合」に対し、予算の範囲内で、❶成雌の年間の飼養管理経費に対し半額補助、❷ラム肉を廉価で市内に販売した際に1頭当たり2万円補助、❸市外からの優良種めん羊の導入に対し1頭当たり20万円補助――するといった内容です。事業対象となるのはサフォーク種に限ります。


 錦田 それ以外にも、羊の伝染病でスクレイピーという、牛でいうBSEみたいなものですが、これに対する種雄の遺伝子検査の費用を助成しています。昨年度は5頭を検査し、どれも抵抗性を持っていると確認できました。


 ――めん羊資源が枯渇している折、個体導入は大変です。


 山下 資源供給を担う家畜改良センター十勝牧場、道総研畜産試験場ともに供給数が限られていますし、牧場間でも引き合いが強いので、なかなか譲るまでないというのが実際だと思います。

 士別市のめん羊生産は昭和40年代に2度、計200頭を生体輸入して始まったんですけど、今は輸入できる船便がなくなって空輸しかないから、コストは1頭100万円などと非常に高く、現実的ではありません。

 今後は凍結精液を輸入して人工授精によって繁殖する。それも頭数を増やすというより、血を入れ替える目的で行う必要があります。今も補助をもらいながら近親交配を避けるべく取り組んではいますが、なかなか難しい課題です。

大場 種畜牧場が市内に3件あり、優先的に供給を受けているほか、生産組合でも種雄を所有しており、市内の各牧場で利用されています。その導入経費も市が1頭20万円の補助を設けて、血が濃くならないよう取り組んでいます。


 純粋種を維持しつつ今後は交雑種も視野に魅力を創出


 ――主要国のニュージーランドやオーストラリアでは、サフォーク種がめん羊のメインではなくなっていると聞きます。どう対応しますか。


 大場 士別市のサフォークは、市民と行政が連携して昭和40年代から始まった長い歴史のあるまちづくり運動ですので、安易に方向転換できるものではなく、今後もまちづくりや知名度向上などにつなげていく考えです。


 錦田 安定生産と安定供給が崩れてしまうとまちづくりの根幹に関わってくるので、地域おこし協力隊や担い手支援を含め補助を続けていきます。


道の駅で販売されている加工品
道の駅で販売されている加工品

 山下 北海道にも補助をもらっていますが、わずかです。北海道産のめん羊を増やしていくことに対して、まだ理解が得られていないという実感があります。生産者の立場で言うと、今後10年、純粋種の維持と交雑による品種改良を同時に行っていく必要があるというのが正直なところです。

 「士別サフォークラム」のブランドを継続するため、純粋サフォーク種は守っていく使命を感じています。一方で、商売として見たときに絶対数がないと経営が成り立たないので、交雑してもサフォークに劣らず肉量が取れて、肉質、うまさが変わらない交雑種をつくる動きが始まると思います。

 お客さんから見ても、純血だけを求めているかというと、そうではないところもあるでしょう。われわれはブランドをつくり上げてきた側ですが、「羊=サフォークがおいしい」が独り歩きしている部分もあって、羊肉全体を見渡したとき、おいしさは品種だけではなく、餌や育て方、環境という部分も魅力にしていく必要があると思います。

 現に、市外の牧場では品種を売りにしている牧場もありますが、生産者そのものをブランドにしている牧場があって、今後は後者の牧場の方が経営しやすくなるという見方ができます。

 国産羊肉に限らず、今は農産物の産地、生産者、品種、餌、育て方など、情報が分かれば分かるほど価値が付く時代で、それだけやりがいがあると実感しています。だからこそ、品種以外の魅力も、さらにつくり上げていきたいと思います。


 ※1 羊と雲の丘/羊と雲の丘観光㈱が運営する観光牧場。11種類の羊が展示されている「世界のめん羊館」のほか、羊毛体験工房、レストランなどを併設。サフォークは約340頭を飼養、草地面積は50ha。

 ※2 ペコラファーム/地元建設会社が運営していた牧場を引き継ぎ2024年に設立。総飼養頭数は1,000頭(うち繁殖雌258頭、種雄21頭、肉用380頭)、草地面積は40ha。牧場内に飲食施設、宿泊施設を併設するほか、札幌でジンギスカン店を営業。

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