“牛が好き”を牧場につなぐ 美瑛町・稲川さん夫妻が冊子「酪農コネクト」を制作
学生と酪農家が直接話すきっかけをつくろうと、北海道美瑛町の㈱稲川牧場(稲川利昭代表)は、上川管内の10牧場を紹介する冊子「酪農コネクト」を制作した。共進会への出品や放牧、ロボット搾乳など、各牧場の取り組みを○△×で分かりやすく掲載。給与や勤務時間といった求人条件ではなく、学生が自分の興味に合う牧場を見つけ、酪農家との対話へ踏み出すための“最初の一歩”を目指した。2026年9月26、27日に安平町で開かれた北海道ホルスタインナショナルショウで配布し、用意した85部がなくなるなど反響を集めた。【文=斉藤宏之】

ショウにいた若者が翌年にはいない
冊子の制作を中心となって進めたのは、利昭代表の妻・麗央菜さんだ。きっかけは、共進会に足を運ぶ若者と酪農現場との間にある“情報の隔たり”だった。
北海道ホルスタイン農業協同組合の理事を務める利昭代表は、理事会後の懇親の席などで、共進会に関わる若者について話すことがあった。ショウで牛を引いていた若いリードマンの姿を、翌年には見かけなくなることも少なくない。「牛が好きで共進会に参加している若者を、酪農業界につなげられないだろうか」。そんな問題意識を麗央菜さんに話したことが、企画の出発点となった。
その必要性を実感する出来事もあった。現在、稲川牧場で働く男性スタッフは農業高校在学中、共進会に取り組む牧場への就職を希望していた。しかし、学校やハローワークで得られる求人情報だけでは、どの牧場が共進会に取り組んでいるのか分からなかったという。2025年に共進会で男性と出会った利昭代表が声をかけたことをきっかけに、男性は翌春、同牧場で働き始めた。
こうした話を聞いた麗央菜さんは、牧場の特徴を分かりやすく紹介する冊子があれば、若者と酪農家をつなぐことができるのではないかと考えた。「誰かがやらなければ始まらない。それなら私がやろう」と、2026年3月に構想を始め、同年5月から冊子の制作を本格化させた。


求人ではなく対話への入り口に
麗央菜さんは冊子のレイアウトを固めた後、上川管内の牧場に掲載を呼びかけ、情報を集めていった。完成した冊子には、稲川牧場を含む10牧場の基本情報や写真、牧場からのメッセージなどを掲載している。
大きな特徴は、放牧やロボット搾乳、共進会、和牛、自家授精、自給飼料といった取り組みに加え、インターンシップや牧場見学の受け入れ状況を○△×で示したことだ。学生が自分の興味に合う牧場を、直感的に探せるようにした。
利昭代表は「牧場が何をしているかは、探してもなかなか出てこない。○△×を付ければ一目で分かると、妻が考えてくれました」と話す。
一方、給与や勤務時間などの雇用条件はあえて掲載しなかった。「酪農コネクト」は求人冊子ではなく、学生が働いてみたい牧場を知り、酪農家と直接話すための入り口という位置付けだからだ。最初から条件だけで判断するのではなく、対話を通じて互いの考えや人柄を知った上で、その先の話を進めることを想定している。
制作で特に時間をかけたのは、牧場ごとに異なる取り組みや魅力を、共通のフォーマットで分かりやすく伝える作業だった。麗央菜さんは各牧場から寄せられた写真や文章を整理し、必要な情報を一つ一つ確認しながら、一冊の冊子としてまとめ上げた。
85部を配布、会場で急きょ二次元コードも
完成した冊子は、2026年9月の北海道ホルスタインナショナルショウで初めて配布した。学生や学校関係者、掲載牧場、他地域の酪農家、酪農関係者などに配ったところ、用意した85部はあっという間になくなり、100部でも足りないと感じるほどだったという。夫妻は急きょ、冊子のPDFを閲覧できる二次元コードを会場で作り、希望者に案内した。
冊子には、ナショナルショウの繋留場配置図も掲載した。出品している掲載牧場には星印を付け、学生が冊子で興味を持った牧場を会場で見つけ、直接話しかけられるよう工夫した。牧場の情報を読むだけで終わらせず、その場で対話につなげる仕掛けだ。
会場では酪農関係者から「自分が学生の時にも、こうした冊子があればよかった」との声が寄せられたという。また、牧場の取り組みが分かるため、自分の希望に合う牧場を探しやすく、就職後のすれ違いを減らすことにもつながるのではないかとの反応もあった。
麗央菜さんは「共進会を入り口にすれば、牛が好きで、自分がやりたいことがある子を見つけやすいのではないか」と期待する。
春のショウや学校での配布も構想
今回は冊子を配布した時点で、多くの学生が就職活動を終えていたこともあり、「酪農コネクト」をきっかけとした具体的な就職やマッチングには、まだつながっていない。夫妻は、学生が進路を考える早い段階で情報を届ける必要があると感じている。
今後は、春に開かれる北海道ブラックアンドホワイト(B&W)ショウでの配布や、学校に冊子を常設してもらうことなどを構想している。ナショナルショウではWeb上での情報発信を求める声も寄せられた一方、紙の冊子を手に取りたいという要望もあり、双方を生かした展開を検討していく。
※㈱稲川牧場が制作した冊子「酪農コネクト」は、下記からダウンロードできます。
デーリィマンプラスでは今後、稲川さん夫妻と相談しながら、冊子に掲載された牧場を独自の記事企画として順次紹介していくことを検討しています。若者が自分の希望に合う牧場を知り、酪農家との最初の対話へ踏み出せるよう、情報発信の方法を探っていきます。
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