3歳で尻、胸、乳房が充実し、4歳で管内GC、5歳で全道GC――オーハム ロケツト 北海道別海町・寺澤佳吾さん

2026北海道B&Wショウでグランド・チャンピオン(GC)に輝いたプロミネンス オーハム ロケツト ET。根室管内別海町の寺澤佳吾さん(41)は輸入受精卵を導入し、18年に新たなファミリーを迎え入れた。これまでユキナシ、パラゴンといったファミリーを築き上げてきた寺澤牧場の軌跡をたどる。【文・写真=山口昌孝】


理想的な体型との出会い――ロケツト
寺澤さんがハイタッチをしたすぐ後に、同町の酒井保幸さんがリザーブ・グランド・チャンピオン(RGC)に選ばれたときの歓声は記憶に新しい。「同郷の先輩と最高の結果を迎えられたことをうれしく思う」と感慨深く笑みを見せる。
9代前に“品種の女王”シー グレンリツジ サイテーシヨン ロクシー(EX-97)をルーツに持つオーハム ロケツト。その母、受精卵で導入したドアマン ロケツトについて、「血統の背景を詳しく把握していなかったが、SemexのブルブックにGW ロケツトとドアマンの娘牛が載っていた。それを見て、理想的な体型で“牧場に取り入れたい”と思い、輸入元の㈱十勝畜産貿易に問い合わせた」と振り返る。
輸入した受精卵からドアマン ロケツトが誕生。ショーへの期待を寄せていたものの、2産を終えた頃から尻が上がってきて出品はかなわなかった。娘牛に希望を託し、交配を考えた際に18年のローヤル・アグリカルチュアル・ウインターフェア(RAWF、カナダ)の2歳クラス1位だったカナダ・ルックアウト牧場出品のガレイ オーサム ビユーテイーの父がオーサムREDだったこともあり候補に挙がった。しかし、オーサムREDの乳量がマイナス評価なのを懸念していたところ、地域の先輩から「牛群の5割を占めていたら問題だが、数頭なら選択肢に含まれる」と助言され踏み切った。現在まで5頭の娘牛が生まれ、1頭は販売に回した。自腹で分娩した娘牛はいない。
2産目で生まれたオーハム ロケツトも未経産時は牛群で目立つ方ではなかった。初産時の体型審査で83点となるも2歳、3歳と9月分娩でショーへの出品にタイミングが合わずにいた。ただ3歳の時に86点となり、体型が大きくなくても尻、胸、乳房の幅が充実し、目を見張るものがあった。そして全共イヤーの25年、4歳で根室B&Wショウの2カ月前(3月1日)に分娩し出品。見事、GCを獲得した。審査員を務めたアメリカ・GenoSourceのカイル・ディマー氏に評価されたことで、「これまでの改良の方向性は間違っていなかったと自信につながった。それから選畜の際も理想の体型を意識するようになった」
今年の全道の前は「泌乳ピークを迎えていたが、能力を最大限発揮している感じではなかった」という。そこから当日までは朝夕の牛洗いを行い、普段は経産牛をラウンダーにかけていなかったが、大会前の2週間だけは30分程度動かした。「10日前ごろからどんどん状態が良くなっていった。やはり日光を浴び、適度な運動をすることで皮膚に血管が浮き出て、活力がみなぎるようだ」
「常に100%の状態で出したい。序列はその後に付いてくるもの」と寺澤さん。日乳量は58kg出ていたが、会場に着いてから餌は食べるものの乳量は落ちていた。その変化をつぶさに捉え、管内では18時間だった乳房調整(搾乳しない時間)を全道では22時間にした。「この状態を保ち、搾ってもしこりがなかったので、万全の状態で挑めたのではないか」

乳の出る牛残し牧場の礎築いた「ユキナシ」
駒澤大学附属岩見沢高校で、野球漬けの日々を送った寺澤さんは酪農学園大学(江別市)に進学。全道でRGCを獲得した酒井さんは野球部の先輩でもあった。08年実家で就農。22年に経営主になった。
昭和初期に網走から現在地の別海町菊水地域に入った寺澤家。寺澤さんで4代目になる。父・信(まこと)さん(72)の代では“乳の出る牛”を残してきた。その礎を築いたのは、信さんの祖父が隣の酪農家が離農する際に分けてもらった1頭だ。その牛が2月に分娩。珍しく雪が積もらない年だったことから「ユキナシ」と名付けた。ユキナシは10産、5代続けて1万4,000kgを生産する娘牛を輩出し、牧場の基礎牛となった。今年春の全道ジュニア2歳クラスで1位になったプロミネンス ユキナシ アイキヤンデイーのルーツである。
信さんは「ユキナシは採卵しても良く取れたが、技術の進歩もあってホルスタインは輸入受精卵が入って来るようになり、群に残る牛は変わってきていた。時代の変化を見据え、和牛を増やし経営の柱にしていった」と話す。
交配戦略は、まず残したい母系を優先して良い発情が来た牛に雌雄選別済み精液を使う。7割はホルを生産し、はらみで年間20頭は販売に回す。残りは和牛ET(受精卵移植)で30頭を生産する。「長命連産と乳量の両立は難しい。今はそれがどこまで行けるか、突き詰めているところ」
そのためには育成にも力を入れている。「人間と同じく、赤ちゃんの時から大切に育てるのが重要」と考え、哺乳は従業員に任せていた時期もあったが、今は寺澤さんが担う。小さな変化や異常に早急に対処するのが結果として能力を引き出し、長持ちする。パスチャライズ機能付きの哺乳機「ミルクタクシー」の効果も大きい。哺乳前にタイマーで設定した温度になり、バケツに注ぐまで温度が均一に保てる。「極端に体調が悪化する個体はいなくなった。和牛も子牛時期にこじらせると、その後の増体に影響するので重宝している」


作業負担軽減のため刻みサイレージに変更、糞尿処理はスラリーに
これまで牧草は全てロールで収穫していたが、昨年からコントラクターを利用して70haを刻みサイレージで収穫するように作業体系を変更した。ここには作業負担と糞尿処理の兼ね合いがある。ちょうど国のかんがい事業(95%補助)でスラリーストアを整備できるタイミングで、秋から運用を開始する。「刻みサイレージは昨年、若干刈り遅れ気味で水分量70%を切るほど低く自分の希望に近かった。想定以上の出来だったが乳量の上積みはなく、今年のものの方がよく食べる印象がある」と話し、品質が生乳生産を左右することを身に染みて感じている。
会場の幕舎で「寺澤の草はよく食べる」と言われることがあり、「良い草だと言われるのは牛を評価されるのと同じくらいうれしい」。良質な粗飼料を生産するため、年に10ha程度は草地更新している。
スラリーに変えたことで敷料の麦稈にも工夫が必要だった。糞が飛び跳ねるのを避けるため、長物をふんだんに敷きたいところだが、そのままだとストア内部で詰まる問題が生じた。もみ殻を試したこともあったが、カビが原因で乳房炎になった経験を踏まえ、刻んだ麦稈を敷くようにしている。

複数の息牛が種雄牛になっている父系を信頼
ドアマン ロケツトの受精卵は同町・竹田牧場に、3産目のオーラム ロケツトは同町・菊地牧場に渡った。「搾れるし乳房も良いと評判を得ている。牛舎を見渡して思うのは、スムーズに子を産めて、産次を重ねても乳器が下がらず、肢蹄が丈夫な牛が残る」と話すように、ショーだけでなく実用性に富んだ血統を意識する。ドアマン ロケツトからは6月にも採卵して2卵取れた。今後もファミリーを増やしていく。
種雄牛を選ぶ際、サイアーライン(父系)にも意識を向ける。例えばデルタラムダのように複数の息牛が種雄牛になっているものは信頼して使うようにしている。「牧場に娘牛がいる場合は、実際に見てリピートするか判断する。ショーには未経産牛も出品するが、やはり乳房を付けてから出すのが理想」。乳房の遺伝評価が低い種雄牛は使わない。
高ゲノム牛への改良にも取り組む。2月の未経産牛GNTPランキングでは、プロミネンス GH ロジツク ハーモニー(1584529246)が+3,687で10位に入っている(6月16日時点)。(一社)ジェネティクス北海道の指定交配に入り、種雄牛造成にも期待が持たれる。
今後はさらなる経営の質を高めることを目標に掲げる。個体乳量は500kg増の1万1,000kgを目指し、個体のパフォーマンスを上げていく。そして、スラリーを活用し、肥料代を半分程度に抑えて収益性を高める。トウモロコシ栽培にも意欲を見せる。施設投資などハード面を変えるのは難しいが、ソフト面はすぐに変えていける。
一方、課題に感じているのが繁殖だ。牛群構成は2産、3産と25%ずつで安定しているものの、授精回数、空胎日数はまだまだ改善の余地がある。そんな牧場の課題解決の糸口になるのは、ショーへの参加だ。全国から集まる酪農家との情報交換の場となる。「良いことも悪いことも相談でき、ライバルでありながら仲間でもある。今回の結果は自分1人では成し遂げることはできなかった。支えてくれた仲間たちに感謝したい。これからも互いに高め合っていきたい」
太陽の縁から立ち昇る赤い炎――プロミネンスに込めた思い
近年の賞歴をたどると、25年の第16回全共第5部(18カ月以上20カ月未満)でプロミネンス サムライ キヤンデイが1等賞3席(予選の根室ホルスタイン共進会では1等賞1席)、2024根室ホルスタイン共進会でプロミネンス パラゴン クリステイーナ ジヤガーがインターミディエイト・チャンピオン(23年根室ホルスタイン共進会でリザーブ・ジュニア・チャンピオン)、その祖母・プロミネンス パラゴン クリステイーナ アイオーンは17年北海道ホルスタインナショナルショウにはJサイア3歳クラス1等賞1席を獲得している。このパラゴンもショーで出品するファミリーだ。22年根室B&Wショウではプロミネンス グロラン ウイングス ソロモンがGC、18年根室ホルスタイン共進会ではプロミネンス プレリユード ブローミスがジュニア・チャンピオンを獲得するなど、輝かしい功績が並ぶ。
冠名のプロミネンスは母・静江さん(72)が太陽の「紅炎」をイメージして付けた。太陽の縁から立ち昇る赤い炎のように輝く活躍をこれからも期待したい。
【牧場概要】
飼養数:乳牛225頭(搾乳牛100、乾乳牛25、育成牛100)、和牛繁殖90頭
飼料畑:160ha(全て牧草)
出荷乳量:1,250t/年
個体乳量:1万500kg
乳質:乳脂率4.3%、タンパク質率3.5%、無脂固形分率8.9%、体細胞数14万個/mL
スタッフ:5人(本人、妻・渚さん〈38〉、技能実習生3)
初出:月刊『デーリィマン』2026年8月号
初出企画:Breeders Profile
原題:3歳で尻、胸、乳房が充実し4歳で管内GC、5歳で全道GC――オーハム ロケツト/育成にも力入れ長命連産と高乳量の両立突き詰める
※本記事は掲載時点の内容です。
.webp)








