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《北のめん羊ワンダーランド 19》商社が守り育てるテクセル種の拠点 北海道千歳市・野澤北海道農場

9月11日
読了時間: 5分

更新日:9月11日

樹木が豊富に残された放牧地
樹木が豊富に残された放牧地

 畜産・食品関連を中心とする貿易商社の㈱野澤組。その事業の一角を担っているのが、創設54年を迎えた自社牧場「野澤北海道農場」だ。野澤組は日本におけるテクセル種導入の先駆けで、牧場では現在も一貫してテクセル種のみを飼養し、品種の維持に努めている。牧場の歴史と肉質をブランドに、商社ならではの羊肉生産を続けている。

 【文・写真=星野晃一/2026年6月取材】※「北のめん羊ワンダーランド」は毎週金曜日更新中!


野澤北海道農場を管理する3人。左から田中友理さん、福井さん、福井奈恵さん
野澤北海道農場を管理する3人。左から田中友理さん、福井さん、福井奈恵さん

牧場の歴史と肉質をブランドに


 野澤北海道農場は千歳市に位置する。「単にモノを売るだけではなく、実際に自分たちで営農することで、生産者のお客さんの気持ちを少しでも理解できる社員に」という設立当初からの理念の下、半世紀以上にわたり畜産経営を続けてきた。現在は羊のテクセル種と乳牛を飼養している。

 テクセル種はオランダ・テセル島原産の肉用種で、筋肉質な体型と優れた赤身の肉質で知られる。野澤組が日本で最初にテクセル種を導入したきっかけは、オランダとの長年の貿易関係だった。先代社長の野澤眞一郎氏が1992年、オランダ女王から名誉勲章「KNIGHT OF THE ORDER OF ORANGENASSAU」を授与された際、日本へのテクセル種めん羊の導入を託され、この年、雄雌25頭を輸入し、野澤北海道農場で飼養を開始した。その後は一貫してテクセル種のみを飼養し、現在も全頭で血統登録を実施している。

 現在の羊の総頭数は258頭。繁殖雌羊120頭、種雄羊3頭、更新用育成羊45頭、肥育・出荷用羊90頭で構成されている。年間100~120頭を交配させ、毎年約50頭のホゲットを出荷するほか、繁殖を終えたマトンも一部販売している。

 一方で、近年は生体販売を停止している。コロナ禍で需要が落ち、繁殖頭数を絞った影響が尾を引いているためだ。「テクセルを譲ってほしいという問い合わせは非常に多いのですが、現在は自社牧場で安定生産できる体制を確立することを優先しています」と、同農場の福井允二さんは話す。


羊舎はフリーバーン
羊舎はフリーバーン

17haの牧場で羊と乳牛を飼養


 牧場の総面積は17haで、このうち12haが放牧地。約7割を羊、3割を乳牛が利用している。乳牛の飼養頭数は40頭弱で、このうち搾乳牛は16~18頭。乳牛の生乳は出荷しているが、収益目的というよりも、酪農関連商材を扱う企業として現場を理解するための意味合いが強い。フリーストール牛舎での管理を中心に、夏場には草地に出している。

 現在の現場スタッフは3人で、羊と牛の両方を管理している。乳牛も飼養しているため、感染症対策には万全を期し、長靴の履き替えや機械の洗浄、除ふん作業を徹底している。

 羊は放牧飼養を中心に、購入した2番草の乾草を通年給与している。これに発育ステージに応じて、タンパクが低く脂肪が高い配合飼料を与え、肥育群には発酵飼料も給与して効率的な増体を図っている。

 出荷先は札幌と東京の飲食店が中心で、20年以上取引が続く顧客もある。販売は枝肉で行われており、需要に対して供給が追いつかない状況が続いているという。


羊舎から離れたところに牛舎がある
羊舎から離れたところに牛舎がある

生産効率を上げ出荷頭数増へ


 近年は北海道めん羊協議会の事業を活用し、コンサルタントによる定期的な指導も受けている。血液検査による栄養状態の分析や、ボディーコンディションスコア(BCS)の評価を通じて、受胎率や子羊の生存率向上に取り組んでいる。

 福井さんは「120頭が妊娠しても、全てが出荷につながるわけではありません。損耗を減らせれば、その分出荷頭数も増やせるはずです」とし、生産効率の向上を重視する。現状の放牧地面積や人員体制を考えると、繁殖規模は現在の100~120頭がほぼ適正規模と考えているが、出荷頭数にはまだ伸びしろがあるとみている。

 草地管理については課題もある。「自然な状態をできるだけ残すという社の方針から、放牧地に樹木が多く、機械が入りにくい場所もあり、草地の更新がなかなか難しいのが現状です。最近はアザミなどのトゲのある雑草が目立ってきて、採食性が落ちて困っています。土壌分析なども含め、今後の課題ですね」と福井さんは話す。

 駆虫は、背中に塗るタイプの薬剤などを使っている。「テクセルはサフォークに比べ、寄生虫に比較的強いといわれていることもあり、コンサルタントからは症状が出てから対処すればいいというアドバイスをもらっていますが、放牧に出す前には一通り対策をしています。最近の学説では経口薬でないと効かないという話もあり、模索中です」と福井さん。


重要な遺伝資源を守り育てる


 牧場の歴史を振り返ると、当初は生体輸入した乳牛の検疫施設としての役割を担い、その後は豚なども飼養してきた。時代の変化とともに現在の羊と乳牛の飼養へと姿を変えながらも、「現場を知る」という創業理念は変わっていない。テクセル種の飼養頭数が国内で決して多くない中、野澤北海道農場は日本における重要な遺伝資源を守り育てる拠点としての役割を果たしている。

 今後の目標は、生体販売を再開できるレベルまで生産を安定化させること。そして、54年間積み重ねてきた牧場の歴史とテクセル種の価値を、肉質やブランドストーリーとして市場へ発信していくことだ。

 「需要があるからといって、ただ頭数を増やせばいいわけではありません。品質を守りながら、テクセルの魅力を伝えていきたい」と福井さんは語る。日本のめん羊産業におけるテクセル種の未来を支える重要な役割を担っている。

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