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ジンギスカン鍋から歴史と文化が見えてくる 私設博物館「ジン鍋アートミュージアム」

  • 20 時間前
  • 読了時間: 4分

 

博物館内。取材時は、タレの老舗メーカーのベル食品が販促用につくった全8種の鍋(上、手前)と、味付けジンギスカンの老舗店の松尾ジンギスカンの歴代鍋(下、手前)を企画展示。どちらもコンプリート
博物館内。取材時は、タレの老舗メーカーのベル食品が販促用につくった全8種の鍋(上、手前)と、味付けジンギスカンの老舗店の松尾ジンギスカンの歴代鍋(下、手前)を企画展示。どちらもコンプリート

 羊肉とは切っても切れない関係にあるジンギスカン。北海道岩見沢市には、ジンギスカン鍋500点以上を収蔵した私設博物館「ジン鍋アートミュージアム」がある。館長の溝口雅明さん(70)は、「ジンギスカンは北海道遺産に認定されている、いわば無形文化財。ジンギスカン鍋を実物展示して歴史や文化に親しんでもらうとともに、鍋のデザインなどをアートとしてとらえ直してもらうことを目指しています」と開設の狙いを話す。

 博物館があるのは山あいの旧炭鉱まち。溝口さんの祖父がここで商店を営み、父母が引き継いでいたが、炭鉱閉山、国鉄線廃止などもあって閉店。最盛期には7,000人を超す住民がいたが、現在は60人弱となった。溝口さんは、炭鉱で栄えたころにジンギスカンがよく食べられていた地域という縁もあり、旧商店の建物を博物館に改装した。

 「20年くらい前、異業種交流会で知り合った北野隆志さん(現在の博物館顧問)が、北海道大学で盛んだったジンギスカンパーティーを『ジンパ学』と称して研究していて、面白そうだなと思いました。うちの商店の倉庫を探ったら、古鍋が4枚見つかり、その中の1枚がたれ会社の販促用の鍋でした。顧問に見せたら『これは大発見だ』となって、それ以来興味を持って集め出しました」

 短大教授の定年退職を間近に控え、「何か面白いことを」と考えていた溝口さんは、仲間の協力もあって博物館開設を決意。2015年11月にジンギスカン鍋83枚で仮オープンし、2016年11月には186枚を数え、本オープンした。


世界基準で技術を競う


 現在、所蔵する鍋は500枚以上に上る。この中で最も貴重な鍋を溝口館長に伺うと、「糧友会製 成吉思汗鍋」のプレートが付いた鍋を棚から出してくれた。


国産鍋第1号とされる糧友会製の鍋。野菜を焼く脂だまりがない
国産鍋第1号とされる糧友会製の鍋。野菜を焼く脂だまりがない
旧夕張工業高校の実習でつくった肉厚の鍋。「薄くつくるのが難しいんです」と館長
旧夕張工業高校の実習でつくった肉厚の鍋。「薄くつくるのが難しいんです」と館長
味付き肉と、焼いてからたれを付ける肉を同時に楽しめる仕切り鍋。当地の旧温泉施設が所有していた
味付き肉と、焼いてからたれを付ける肉を同時に楽しめる仕切り鍋。当地の旧温泉施設が所有していた
溝口館長。祖父が開業した旧商店を改装し博物館に
溝口館長。祖父が開業した旧商店を改装し博物館に

 これは戦前、陸軍の外郭団体「糧友会」が、その機関誌100号と会創立10周年を記念して読者にプレゼントしたものだという。国産鍋第1号に当たり、国内に3枚現存するうちの1枚で、近年のような野菜を焼くスペースがない。

 「ジンギスカンは当初、脂を火の中に落として、その煙でいぶされた肉に香り付けをしておいしくなる料理でした。それが、室内でやるようになり、またガスコンロが普及して脂を下に落とせなくなった。そのうち肉から出た脂で野菜を焼くとおいしいことが分かり、野菜を焼くスペース、脂だまりというんですが、普及していったんです」

 このほかにも、工業高校の生徒が授業で作った分厚い鍋や、北海道日本ハムファイターズ、ハローキティのマークをあしらった鍋、内径100cmの巨大鍋など珍品も展示されている。中には、中央に仕切りが付き、味付き肉と、焼いた後にたれを付けて食べる肉の両方を楽しめる鍋もある。岩見沢市は、味付きジンギスカン文化圏と、焼いてからたれを付ける文化圏の境界線上にあり、この鍋はそうした地域性を物語る一品だ。なお、所蔵している鍋の9割は都府県で製造されているそうだ。


家庭の思い出も一緒に残す


 一方で、開設から10余年の間に一般の人から寄贈された鍋も多数ある。

 「2000年前後にごみの有料化が始まって、家庭の鍋が随分捨てられました。でも、家族の思い出があって捨てられないからと、持って来られる。そういう鍋は珍しい物ではないので、既に所蔵しているものがほとんどですが、せっかくだから頂戴します。思い出をメモして一緒に残しておきます」

 開館時期は4月から11月の月1回(月の第2土曜・日曜)、午前10時から午後4時。入館無料。5人以上のグループには鍋とコンロの貸し出しも行っている(食材は自前で用意、1人800円の寄付金を募る)。


高級化するジンギスカンへの寂しさ


 最後に、道産の羊肉について聞いた。

「道北の若い羊飼いの人からマトンを分けていただいて食べたことがありますが、やっぱりおいしいですね。特に脂身が格別で、その脂で焼いた玉ねぎだけで、飯もビールも進んじゃいましたよ」

 そう目を細める一方で、溝口館長はこうも話す。

「ただ、これは輸入肉にもいえるけど、最近は値段が高くなって、昔のようにジンギスカンが子どもたちと腹いっぱい食べられる家庭料理ではなくなってきたのが寂しいですね」

 (文・写真/星野 晃一)


ジン鍋アートミュージアム

〒068-3135 北海道岩見沢市栗沢町万字仲町8番地

開館:4~11月の月1回(土曜・日曜)、午前10時~午後4時。facebookにて要確認。

問い合わせ:溝口雅明さん

電話:090-7054-0971

メール:mizo@yoko-net.sakura.ne.jp

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