≪北のめん羊ワンダーランド❶≫ブームになっても生産現場は手いっぱい 羊肉主産地・北海道の今
- 5 日前
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【ゲスト】北海道めん羊協議会会長・武藤浩史さん/同顧問・河野博英さん
近年、脂肪燃焼効果が注目されるなど、羊肉の人気が高まっている。羊肉と言えばジンギスカンが全国的にポピュラーだが、こちらは「北海道遺産」にも認定されているほどだ。しかし、国内に流通する羊肉のうち国産はわずか約0.5%で、そのうち約7割が北海道産。国内消費の大半はオーストラリア産とニュージーランド産が占めており、国産は高級レストランや一部の焼肉店でしかお目にかかれない。
本連載では、需要が急激に高まる中、生産現場ではどう対応しているのかを現地取材するとともに、関連業界の方々にも聞く。連載の第1回では、北海道めん羊協議会会長の武藤浩史さんと、同顧問の河野博英さんに登場願った。そこには、需要増に対応しきれない生産現場の実情と、産業構造上の特殊事情が横たわっていた。(4月2日取材)
世界的に高まる羊肉需要
――羊肉ブームといわれていますが、国内の需要と供給の状況は。
武藤 まず輸入の状況ですが、輸入相手国が増える傾向にあります。以前のようなニュージーランド(NZ)やオーストラリア(豪州)一辺倒では、需要を満たせなくなっています。世界的にも需要が増え、それに応えきれず、南米など新たな輸入先を探している状況です。
河野 この状況を招いた大きな要因としては、BSE発生による消費者の牛肉離れや、羊肉に多く含まれるとされるL-カルニチンの脂肪燃焼効果がマスコミで取り上げられたこと、さらには中国国内の火鍋ブームがあります。特に火鍋ブームで需要が爆発的に増え、価格もドーンと上がりました。
武藤 今は中国経済が落ち込んでいるので頭打ちとはいえ、中国はすごい量の羊肉を輸入しています。一番の輸入国です。一方、羊肉の輸出はNZや豪州がほとんどを占めています。EUは域内流通が主で、一部の高級肉などを域外に出す程度です。羊肉を消費する国は、どこも量が絶対的に足りていません。
――日本は近年、NZや豪州の羊肉を買い負けしているため、他国からも入れているということでしょうか。
武藤 それでも統計で見ると、全体の輸入量は増えていません。
河野 輸入量は昔からほぼ2,000万kgで推移していますが、最近はむしろ減っています。2018年の輸入量は2,415万4,000kgで、2023年は1,853万5,000kgですから。
武藤 世間でいくらブームだと言っても、供給量はそれほど増えていないんです。国内で羊飼いとして新規就農した人の報道が時々ありますが、高齢などでやめる既存の羊飼いもいて、生産量はこの10年、ほとんど増えていないというか、むしろ微減しています。では、需要はあるのに生産がなぜ増えないのか。ここに、日本の羊肉生産が抱える構造上の大きな問題があるんです。
日本市場に多い「肩ロース」指定
武藤 輸入肉についても、価格面だけで買い負けしているのではありません。中国は枝肉で大量に買うけど、日本の場合は穀類肥育したものを指定したり、肩ロースを中心にパーツ分けしたものを輸入したりしています。
個人的には、そもそも肩ロースが多く流通すること自体がおかしいと思います。NZ産で言えば、肩ロースは1頭の半身から1kgも取れません。前肢の方が肩ロースで、後肢はリブロース。リブロースは、いわゆるラムチョップをつくるための部位で、パーツ分けすればおそらく比較的高い価格帯で流通します。一方、肩ロースの部位は、ヨーロッパやNZでは基本的にラムチョップにはしません。
これは私の想像なんですが、割と安価な肩ロースが日本に入ってきているのではないかと思います。だから、うちの牧場に国内のお客さんから問い合わせがあっても、肩ロースを指定してくるんです。肩ロースなんて肉としてあまり量が取れないから、問い合わせにはこうした輸入事情を説明しています。お店の人も流通事情をよく理解していないんです。
河野 ただ、肩ロースって日本人は好きなんですよ。牛肉でも豚肉でも一番売れるのは肩ロース。柔らかくて脂肪も適度に入っているので。
武藤 確かにジンギスカンには向いていますね。値段的にもロースより肩ロースの方が安いはずです。でも、もう肩ロースですら十分に調達できず、他の部位も使っているようです。このあたりはあくまで想像ですので、輸入商社に確認が必要です。
河野 貿易統計を見ると、単価も年によって随分違っています。何でこんなに違うのか。為替や産地の干ばつ、輸送コストなどによる変動もあるでしょうが、想像ですが、輸入している肉の部位が変わっているんじゃないかな。
――輸出国によってどんな特徴がありますか。
武藤 フランス産は元々価格が高いですね。フランス産はヨーロッパの口蹄疫の後、しばらく日本向け輸出が止まっていました。それが解禁になって各国が少しずつ日本に出すようになり、近年はアイスランド産のラムも入っていました。
アイスランドは島国なので口蹄疫の影響を受けず、ヨーロッパ産の輸出が止まった時にも日本に輸出できたんです。アイスランド産が一時注目されましたが、どうして日本で売れたかというと、輸入することができたからです。
――特に肉質がどうこう、ということではなくて……。
武藤 先ほど言ったように、アイスランド産はヨーロッパ系ですから、NZ産や豪州産より高級とされてはいます。
定着する羊肉人気
――需給の実情は別にして、国内では羊肉ブームともいわれます。
河野 もうブームという言葉を通り越しているんですよ。ブームは何回か起こっていて、スクレイピー(羊やヤギに発症する神経変性疾患)などで減ったりしながらも定着しています。例えば東京でジンギスカンのブームが起きましたが、まあ、中身がジンギスカンと言えるかどうかは別として、1日に何十件と店が乱立したり、閉店したりしながら定着しました。それ以前は東京中を探したって10件あるかどうかでした。
武藤 今から20年ほど前、2004年頃ですか。その時、ジンギスカン店は東京に500店舗ほどあったのですが、5、6年でブームが去って40店舗ぐらいになりました。それが今また増えだして、以前のブームを超える勢いになってきています。札幌市の歓楽街・すすきのでも、すごく増えていて、付き合いのある店に話を聞くと、少し前でも120~150店はあるとか。関係業者ですら把握できないほど、日々増えているようです。
うちにも買い付けの問い合わせはよく来ますが、もちろんほとんど応えられません。店の客層の7割がインバウンドだそうです。
ジンギスカンの店って立ち上げやすいんです。言い方が悪いかもしれませんが、肉さえ手に入れば特別な技術はそれほど必要ない。肉がうまいか、まずいかが一番大事です。たれで差別化できるにしても、今はお客さんが多いから、どこの店にも入ってしまう状況です。
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羊肉人気が高まる一方で、生産現場はその需要に応えきれていない。では、なぜ国産羊肉は増えないのか。次回は、繁殖用の雌羊や遺伝資源、人工授精体制など、生産拡大を阻む課題を掘り下げる。
【データで見るめん羊・羊肉の現在地】
全国のめん羊飼養は、1957年の64万3,000戸、94万5,000頭をピークに、1961年の羊毛、1962年の羊・羊肉の輸入自由化により衰退した。2005年には9,000頭を下回ったが、2024年は995戸、2万3,000頭に盛り返している。
北海道は2018年に6年ぶりに1万頭台に回復し、2024年は201戸、1万1,000頭となった。都道府県別ではトップで、全国の約5割を占める。
国内の羊肉生産量は2021年度から増加傾向にあり、2024年度は93t、このうち北海道は67tだった。輸入量は近年、2万t前後で推移し、オーストラリアとニュージーランドでほぼ100%を占める。国内消費量の大半を輸入が占めており、国産割合は約0.5%にとどまる。
※北海道農政部「北海道のめん羊をめぐる情勢」(2025年12月)から

