《北のめん羊ワンダーランド 1》国産羊肉はなぜ増えないのか 北海道めん羊協議会会長・顧問に聞く
- 7月10日
- 読了時間: 7分
更新日:7月26日

ブームになっても生産現場は手いっぱい、増産見込めず
国内需要の1%未満、羊肉主産地・北海道の今
脂肪燃焼効果が注目されるなど、近年、羊肉の人気が高まっている。羊肉と言えばジンギスカンが全国的にポピュラーだが、こちらは「北海道遺産」にも認定されている。だが、国内に流通する羊肉のうち国産はわずか0.3~0.7%で、そのうちの7割が北海道産。国内消費の大半はオーストラリア産とニュージーランド産が占め、国産は高級レストランや一部の焼肉店でしかお目にかかれない。
本連載では、需要が急激に高まる中、生産現場ではどう対応しているのかを現地取材するとともに、関連業界の人々にも聞く。連載の第1回では、北海道めん羊協議会会長の武藤浩史さんと、同顧問の河野博英さんに登場願った。そこには、需要増に対応しきれない生産現場の実情と、産業構造上の特殊事情が横たわっていた。
(聞き手・構成=星野晃一/全7回の1回目/2026年4月2日取材)


世界的に高まる羊肉需要
――羊肉ブームといわれていますが、国内の需要と供給の状況は。
武藤 まず輸入の状況ですが、輸入相手国が増える傾向にあります。以前のようなニュージーランド(NZ)やオーストラリア(豪州)一辺倒では需要を満たせなくなっています。世界的にも需要が増え、それに応えきれず南米など新たな輸入先を探している状況です(表)。

河野 この状況を招いた一番大きな要因は、BSE発生による消費者の牛肉離れや、羊肉に多く含まれているというL-カルニチンの脂肪燃焼効果がマスコミで取り上げられたこと、さらには中国国内の火鍋ブームがあります。特に火鍋ブームで需要が爆発的に増え価格もドーンと上がりました。
武藤 今は中国経済が落ちているので頭打ちとはいえ、すごい量、一番の輸入国です。一方、羊肉の輸出はNZや豪州がほとんどを占めています。EUは域内の流通が主で、一部の高級肉などを域外へ出す程度です。羊肉の消費国はどこも量が絶対的に足りていません。
ブームでも増えていない供給量
――日本は近年、NZや豪州の肉を買い負けしているから、他国からも入れているということですね。
武藤 それでも統計で見ると、全体の輸入量は増えていません。
河野 輸入量は昔からほぼ2,000万kgで推移していますが、最近はむしろ減っています。2018年の輸入量は2,415万4,000kgで、2023年は1,853万5,000kgですから。
武藤 世間でいくらブームだと言っても供給量はそれほど増えていないんです。国内で羊飼いとして新規就農した人の報道がときどきありますが、高齢などでやめる既存の羊飼いもいて、生産量はこの10年、ほとんど増えていないというか、微減しています。では、需要はあるのに生産がなぜ増えないのか。ここに日本の羊肉生産の構造上の大きな問題があるんです。
肩ロース人気が根付いた背景
武藤 輸入肉についても、価格面だけで買い負けしているのではなく、中国は枝肉で大量に買って余すことなく使うけど、日本の場合は穀類肥育した癖の少ないものを指定したり、肩ロースを中心に細かくパーツ指定して輸入しています。
個人的には、そもそも肩ロースが多く流通すること自体が不思議でした。NZ産で言えば、肩ロースは1頭の半身から1kgも取れませんし。実は先日、羊肉販売の老舗の東洋肉店(名寄市)代表の東澤壮晃さんに話を伺う機会がありました。彼は30年ほど前、あまり需要がなく肩肉の一部として販売されていた肩ロースを、ネックフィレという別の規格として付加価値を付けた人で、第一次ブームのときにこれが全国に広がり、今でも人気が続いているとのことです。
本来、肋骨の前の方が肩ロースで、後の方はリブロース。リブロースの部位は、いわゆるラムチョップをつくるための部分で、多分パーツ分けしたら割と高い価格帯で流通します。一方、肩ロースの部位をラムチョップにすることは、ヨーロッパやNZでは昔は少なかった。このため、昔は肩ロースが割と安価に日本に入ってきたのですが、東澤さんによると、これを規格化した肩ロースが市場に根付き、現在でも飲食店での作業効率や歩留まりなどの面で特にジンギスカン店では需要があるのだそうです。うちの牧場にも肩ロースを指定して問い合わせてくるケースがたくさんありますが、パーツ分けされた輸入肉と違い、うちの牧場で1頭から出せる肩ロースの量は少ないことを説明します。

河野 ただ、肩ロースって日本人は好きなんですよ。牛肉でも豚肉でも一番売れるのは肩ロース。柔らかくて脂肪も適度に入っているので。
武藤 確かにジンギスカンには向いていますね。値段的にもロースより肩ロースの方が安いでしょうし。
河野 貿易統計を見ると、最近、輸入相手国が増えていて、それらの国では単価も年によって随分違っています。何でこんなに違うのか。為替や産地の干ばつ、輸送コストなどによる変動もあるでしょうが、想像ですが、その国からどんな肉を輸入できるのか模索しているんじゃないかな。
――輸出国によってどんな特徴がありますか。
武藤 フランス産は元々価格が高いですね。フランス産はヨーロッパの口蹄疫の後、しばらく日本向け輸出が止まっていました。それが解禁になって各国が少しずつ日本に出すようになり、近年はアイスランド産のラムも入っていました。アイスランドは島国なので口蹄疫の影響を受けず、ヨーロッパ産の輸出が止まったときにも日本に輸出できたんです。アイスランド産が一時注目されましたが、どうして日本で売れたかっていうと、輸入することができたからです。
――特に肉質がどうこう、ということではなくて……。
武藤 先ほど言ったように、アイスランド産はヨーロッパ系ですから、NZや豪州産より高級とされてはいます。
定着する羊肉人気
――需給の実情は別にして、国内では羊肉ブームともいわれます。
河野 もうブームという言葉を通り越しているんですよ。ブームは何回か起こっていて、またスクレイピー(羊やヤギに発症する神経変性疾患)などで減ったりしながらも定着しています。例えば東京でジンギスカンのブームが起きましたが、まあ、中身はジンギスカンと言えるかどうかは別として、1日に何十店と乱立したり、閉店したりしながら定着しました。それ以前は東京中を探したって10店あるかどうかでした。
武藤 今から15~20年前、2004年頃ですか。その時は東京で500店ほどあったのですが、5、6年でブームが去って40店ぐらいになりました。それが今また増えだして、以前のブームを超える勢いになってきています。札幌市の歓楽街のすすきのでも、すごく増えていて、付き合いのある店に話を聞くと、少し前でも120~150店はあるとか。関係業者ですら把握できないほど、日々増えているようです。
うちにも買い付けの問い合わせはよく来ますが、もちろんほとんど応えられません。店の客層の7割がインバウンドだそうです。ジンギスカンの店って立ち上げやすいんです。言い方が悪いかもしれませんが、肉さえ手に入ったら特別な技術もそれほど必要でない。肉がうまいか、まずいかが一番大事です。タレで差別化できるにしても。今はお客さんが多いから、どこの店でも入っちゃう。
◇
羊肉人気が定着する一方で、生産現場は需要に応えきれていない。では、なぜ国産羊肉は増えないのか。次回は、繁殖用の雌羊や遺伝資源、人工授精体制など、生産拡大を阻む課題を掘り下げる。
次回はこちら
【プロフィール】
●武藤 浩史(むとう・ひろし)
1958年、京都市生まれ。1984年、帯広畜産大学大学院修士課程修了後、カナダ・アルバータ州で農業実習。同国の羊飼いとの出会いがきっかけで羊飼いへの道へ。1985年、ヤギ300頭、羊60頭の管理責任者として2年間牧場勤務。1987年、北海道白糠町で新規就農し㈲茶路めん羊牧場代表取締役。北海道めん羊協議会会長。羊を産業として成立させるため努力を続ける。共著に『ヒツジの絵本』(農文協)。
●河野 博英(こうの・ひろひで)
1957年、大阪市生まれ。1978年広島農業短期大学卒業、農水省岩手種畜牧場入り。乳牛担当を経て1981年から羊を担当、岩手種畜牧場および十勝種畜牧場(現家畜改良センター十勝牧場)で羊の改良および試験研究に従事、2018年退官。1995年優秀畜産技術者賞を受ける。めん羊アドバイザー、日本緬羊研究会副会長、北海道めん羊協議会顧問。『ヒツジ―飼い方・楽しみ方』(農文協)など羊関連の著書多数。
【データで見るめん羊・羊肉の現在地】
全国のめん羊飼養は、1957年の64万3,000戸、94万5,000頭をピークに、1961年の羊毛、1962年の羊・羊肉の輸入自由化により衰退。2005年には9,000頭を下回ったが、2024年では995戸、2万3,000頭に盛り返している。
北海道は2018年に6年ぶりに1万頭台に回復、2024年は201戸、1万1,000頭で都道府県別でトップ、全国の約5割を占める。
国内の羊肉生産量は、2021年度から増加傾向になり、2024年度は93t(うち北海道67t)。輸入量は近年、2万t前後で推移し、オーストラリアとニュージーランドでほぼ100%を占める。国内消費量のほとんどを輸入が占めていて、国産割合は約0.5%。
※北海道農政部「北海道のめん羊をめぐる情勢」(2025年12月)から
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